中国の地方都市のマンション (c)朝日新聞社 @@写禁
中国の地方都市のマンション (c)朝日新聞社 @@写禁

 中国政府系シンクタンクが「7月にバブル崩壊が到来」と予言する内部資料を作成し、市場に激震が走っている。にわかに高まった金融危機の裏でささやかれるのが「シャドーバンキング(影の銀行)」という聞き慣れない言葉だ。中国バブル崩壊のトリガーと警戒されるその正体とは一体、いかなるものか。ジャーナリストの富坂聰氏が追った。

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 中国財務省の朱光耀次官が7月5日、金融リスクの高まりについて「シャドーバンキングと地方の借金の問題を一体で分析する」と発言したことから世界中の注目を集める“影の銀行”。

 だが、中国においては決して目新しい存在ではなかったという。中国共産党中央機関紙で経済を担当するベテラン記者が語る。

「銀行の違法な融資に始まり違法な信用保証の提供、違法な用途変更、違法な借り換え、名義貸しなど数えればきりがありません。そこに今回、債権を小口化して資金を集めるという手口が加わったというだけのことです。そんなことは昔から横行してきたことで、中国経済においてはむしろ表の経済と一体化していなくてはならない必要悪として存在し続けてきました。要するに地下経済の中に“影の銀行”があること自体が問題なのではない。そこになぜ今、政府が手をつけようとしているのか。それこそが本当に注目すべきポイントなのです」

 地下経済――。それは中国政府が長年に亘(わた)り公式には認めず、「民間経済」とか「地下金融」と呼ばれた中国経済のヤミを指す言葉でもある。

 ただ、私は2010年『中国の地下経済』(文春新書)でその実態を記しているのだが、それはヤミというよりも表の要素がより濃厚というべきだった。

 事実、地下経済を政府の委託によって徹底的に調べた中央財経大学の李建軍教授は、「国有の大企業しか基本的に相手にしない中国の銀行に融資を受けられる中小企業はほとんどない。そのため全国の中小企業の6割以上は実際には地下金融によって支えられているのです」と語っている。

 ならば中小企業より弱小な個人など、なおさら銀行は相手にしない。つまり日本で言うなれば、地方銀行の一部とかつての相互銀行、信用金庫、そして深夜のテレビで派手なCMをするノンバンク系が、中国ではすべて地下金融ということになるのだから、その規模が計り知れない大きさであることが理解できるのではないだろうか。

 今回、そのヤミの部分が少々拡大したからといってどれほど危機が高まったというのだろうか。

 そもそも地下金融の原資は、規模の小さなものであればかつての日本にもあった頼母子講(たのもしこう)のようなもので、今ではタンス預金だ。

 銀行の実質利子よりも高ければ資金は集まる。そしてより大きな規模であれば銀行からの不正な資金流用であり、役人たちが貯めた賄賂の運用を委託するケースも多いとされている。

 圧倒的有利な立場にある銀行が地下金融に資金を流す理由は、恐ろしく有利な条件で儲かるか、もしくは担当者に賄賂が転がり込むかの理由しかなく、たいていは両方だ。バブル経済の崩壊も同じである。

 2010年、中国が不動産価格高騰を抑制するために融資規制に乗り出した。このとき多くのメディアは日本の総量規制をイメージしたのか、「いよいよ中国もバブル崩壊」と書いた。しかし、私はさまざまなメディアでそれを否定した。というのも中国では、金融が不動産価格高騰に果たしている役割が極めて限定的だからだ。

 だからこそバブル崩壊から銀行の資産が劣化し「貸し渋り・貸し剥がし」に至るという連鎖が起きなかったのである。

週刊朝日  2013年7月26日号