内館牧子(うちだて・まきこ)1948年生まれ。脚本家。武蔵野美術大学卒。OL生活を経て、88年に脚本家デビュー。主なドラマ作品に「ひらり」(NHK連続テレビ小説)、「毛利元就」(NHK大河ドラマ)など。近著に『カネを積まれても使いたくない日本語』(撮影/写真部・工藤隆太郎)
内館牧子(うちだて・まきこ)
1948年生まれ。脚本家。武蔵野美術大学卒。OL生活を経て、88年に脚本家デビュー。主なドラマ作品に「ひらり」(NHK連続テレビ小説)、「毛利元就」(NHK大河ドラマ)など。近著に『カネを積まれても使いたくない日本語』(撮影/写真部・工藤隆太郎)
堀尾正明(ほりお・まさあき)1955年生まれ。フリーキャスター。早稲田大学卒。81年、NHKに入局して、「NHKニュース10」のキャスターなどを務める。2008年にフリーへ転身。現在は、「Nスタ」(TBS系)の総合司会などで活躍中(撮影/写真部・工藤隆太郎)
堀尾正明(ほりお・まさあき)
1955年生まれ。フリーキャスター。早稲田大学卒。81年、NHKに入局して、「NHKニュース10」のキャスターなどを務める。2008年にフリーへ転身。現在は、「Nスタ」(TBS系)の総合司会などで活躍中(撮影/写真部・工藤隆太郎)

 言葉は時代とともに変わっていくものだが、脚本家の内館牧子氏と元NHKアナウンサーで、フリーキャスターの堀尾正明氏は、それでも最近の言葉の使われ方には怒りを感じるという。

*  *  *

内舘:私が「週刊朝日」のエッセーで、ヘンな日本語について書くと、驚くほど反響があるんです。

堀尾:それは「わかる、わかる」という同意の反響ですか?

内館:賛同と反論ともにありますが、圧倒的に多いのが「私も気になっていた。よく言ってくれた」という声です。なかには、「ヒトラー並みのプロパガンダだ」という反対意見もありましたが。(笑い)

堀尾:私も、最近の言葉の使われ方には怒っているんです。私の「怒り」もこの本(『カネを積まれても使いたくない日本語』著:内館牧子)にたくさん書かれていました。うれしかったなー。

内館:本を書くにあたって朝日新聞読者に言葉に関するアンケートを取ってもらったのですが、「アナウンサーにはきちんとした日本語を使ってほしい」という意見が多く、特に「NHKは最後のとりで」と書く人が多くいました。元NHKのアナウンサーとしていかがですか?

堀尾:とても名誉なことだと思います。言葉は時代とともに変わっていくものですが、アナウンサーはそのとりでを守る最後尾にいる集団で、常に保守的な存在なんです。今でもそうだと思うのですが、NHKではアナウンサーも、まず全国に54ある各放送局に配属されて、各地域でニュースを読まなければならない。何よりもニュースがしっかりと伝えられないと、仕事ができないわけです。ですから、まず正確で美しい日本語の発声ができるように徹底的に勉強します。

内館:私も「NHKは最後のとりで」という意識があるのですが、最近はその「とりで」が崩れてきている気もします。

堀尾:内館さんも、とうとうそう思い始めてしまったんですか。

内館:NHKの番組で女性アナウンサーが試食をしたんです。そのときに言ったセリフが「あ、普通においしい」。これには本当に驚きました。

堀尾:え!? アナウンサーがですか?

内舘:そうです。私も聞き間違いかと思い、後で周囲の人にも確認しましたが、確かに言っていました。

堀尾:NHK時代に私の後輩が使ったら、厳しく説教しますよ。(笑い)

内舘:そうでしょう!

堀尾:「普通においしい」って意味がわからない。「非常においしい」の反語ですか? 「普通に」「特別に」「非常に」と3段階あって、「普通に」の段階でおいしいということですか?  伝えたい内容がわかりませんよね。

内舘:今の若者は「普通に寝てた」とか言うんです。「標準的に」という意味と「非常に」という意味と両方あって、若者でも判断するのが難しい言葉だとか。(笑い)

堀尾:今は時代が変わって、タレントが司会をやり、記者がキャスターをやるようになりました。アナウンサーの職能として残っているのは、スポーツ実況だけかもしれません。だけど、そのスポーツ実況でさえも、アナウンサーが、サッカー中継で「選手が一人倒れました。選手がいたんでいます」などと言う。

内舘:選手がいたむ?

堀尾:肉が腐ったみたいな言い方でしょう。どんな言葉を使うべきで、何を使うべきではないか、それを判断できるのは、最終的には自分の感覚しかありません。

週刊朝日  2013年7月26日号