「日菓」の杉山早陽子さん(右)と内田美奈子さん。京都市北区にある工房の前で(撮影/写真部・馬場岳人)
「日菓」の杉山早陽子さん(右)と内田美奈子さん。京都市北区にある工房の前で(撮影/写真部・馬場岳人)

「日々のお菓子」「毎日食べたい和菓子」、そんな意味を込めた和菓子職人ユニット「日菓(にっか)」。伝統の世界に新しい風を吹き込んでいる。

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 ふつう、和菓子の意匠(デザイン)は花鳥風月を表したものが多く、菓銘も、『源氏物語』や『古今和歌集』などの古典から引用されることが多い。しかし、日菓の二人が作る意匠は日常がテーマだ。「雅(みやび)な世界もいいけれど、私たちが目にする風景がお菓子のモチーフになってもいいんじゃないか」。そう考えた二人は、京都を拠点に、日々新しい和菓子を創り出している。

 内田美奈子さん(32)は埼玉県生まれ。大学で写真を学び、卒業後は東京の出版社に勤めていた。一方、杉山早陽子(さよこ)さん(30)は三重県出身。大学は英語学科だった。二人とも、特に和菓子が身近ではなかったが、一冊の写真集と出合い、人生が変わった。

「『和の菓子』という作品集で、それを見たときに衝撃を受けました。こんな世界があるのか、と。もともと料理で自分を表現したいと思っていたので、『これだ!』と思い、京都の和菓子店に就職しました」(杉山さん)

 内田さんも同じ写真集をきっかけに和菓子職人を目指し、京都の製菓学校へ通った。そんな二人が2006年、京都で出会い、結成したのが「日菓」だ。

「ポロフェスタというイベントがあって、和菓子の屋台を出すことになったんです。そのとき初めて二人で作りました。首から画板をさげて、そこに和菓子を置いて売り歩いたんですよ」。そう内田さんは笑う。今は、結婚式やイベント用にオーダーを受けて作ることが多く、工房での販売は月1回の「月一日菓店」のみ。それも予約で完売してしまうほどの人気だという。オリジナルの意匠はすでに100種を超え、この春には作品集、『日菓のしごと 京の和菓子帖』も出版した。大学のデザイン科で和菓子の意匠を考える授業などもしている。

「和菓子の新しい視点を提案したい。でも、味や材料は伝統からはずれないようにしています。私たちが和菓子の世界への窓口になれたらと思っています」(内田さん)

週刊朝日  2013年7月19日号