「お風呂で髪を洗っているとき、抜け毛が増えたなと気にはなっていたんです。そんなとき娘から、『髪が薄くなってない?』と指摘されて……。すぐに育毛剤を買いに走りました」。こう語るのは、50代の女性だ。

 薄毛に悩むのは男性と思われがちだが、いまやそうではない。薄毛や抜け毛を気にして、育毛剤を買う女性が増えている。全国のドラッグストアにおける女性用の育毛剤・発毛剤の購入金額は、2010年から12年の2年間で、58%も伸びた。男性用に比べてまだ市場規模は小さいが、男性用が横ばい状態なのに対し、女性用は急成長している。

 大手ドラッグストアの広報担当者はこう証言する。「このところ女性向け育毛剤の売り場は好調です。売り上げは5割増しくらいですね。新しい商品が増えて品ぞろえがよくなり、売り場もにぎわっています」。

 よくなった品ぞろえのなかでも、とりわけヒットしたのが、11年8月に発売された「50の恵 養潤育毛剤」だという。発売元のロート製薬によると、発売当初、この商品は想定の3倍以上も売れ、現在も前年比2割増で推移しているという。同社広報の吉本有希さんはこう話す。

「『50の恵 養潤育毛剤』を発売する前に市場調査をしたところ、薄毛で悩む女性は男性と同じぐらいいて、50代になると男性を上回るという調査結果が出たのです。それなのに育毛剤の使用率は、悩む女性のわずか14%。潜在的ニーズが多いのではと思いました」

 同社は女性用育毛剤を認知してもらうべく、もともと化粧品やヘアケア商品で知られた「50の恵」シリーズに育毛剤を導入した。化粧品などと一緒に並べられている育毛剤を見て、「あ、こんな商品もあったんだ」という感じで手にとってもらえたことが、ヒットの理由だとみている。

 購買の中心は50代だ。「昔に比べておしゃれで元気な50代が増えました。いままでは薄毛を気にしていても何をしていいかわからなかったこの世代の人たちが、女性用育毛剤の存在を知って、買ってくださっている印象です。美しさや若々しさに関心のある様子がうかがえます」(吉本さん)。中高年女性の元気さが、育毛剤ヒットを支えているのは確かだろう。

 男性用発毛剤「リアップ」を女性向けに改良した「リアップリジェンヌ」を発売している大正製薬ブランドマネージャー部の阿部真さんも、こう語る。

「いつまでも若くいたい、きれいでいたいという層に、リアップリジェンヌは支持されています。『発毛剤』ですが、『毛を生やしたい』はもちろんのこと、『髪のボリュームを出したい』『若いころと同じように、ふわっとスタイリングできるようになりたい』といった要望を耳にします」

 通信販売で女性向け育毛剤「薬用リリィジュ」を販売する富士産業広報部の小嶌(こしま)正聖さんは、こう分析する。

「男性の育毛剤の需要は年とともに下がっていきます。一定の年齢になると、『しょうがないか』とあきらめるのでしょう。一方、女性は年齢を重ねても買い続ける傾向があります。いつまでもきれいでいたいという気持ちの表れでしょうか」

週刊朝日  2013年7月19日号