「急性心筋梗塞」「不安定狭心症」「虚血性心臓突然死」の三つを総称し、急性冠症候群(きゅうせいかんしょうこうぐん)と呼ぶ。治療法は、血管内にステントを留置する方法と薬物治療との併用が近年主流だという。

 神奈川県に住む栗原修平さん(仮名・67歳)に異変が起こったのは、昨年7月の暑い日のこと。外出先から帰宅した直後、玄関で靴を脱いでいる最中に、胸に強い痛みを感じ、その場に倒れてしまった。気づいた奥さんがすぐに救急車を呼び、栗原さんは昭和大学藤が丘病院に搬送された。

 心電図や、血管の状態を調べる冠動脈造影検査の結果、右冠動脈の入り口近くが完全に閉塞していた。担当した循環器内科の鈴木洋医師は、急性心筋梗塞と診断した。

 急性心筋梗塞や不安定狭心症など、心臓への血流が滞ることで起きる病気を、急性冠症候群(ACS)という。そのメカニズムを鈴木医師はこう説明する。

「心臓の周囲の3本の冠動脈を道路に見立てると、急性心筋梗塞は路上で事故が起きて通行止めになった状態。心臓に血液が行かないため、放っておけば心筋が壊死しポンプ機能が失われます。不安定狭心症は、道路が細くなって、車が止まりそうになっている不安定な状態。そこからゆっくり閉塞する人もいれば、突然、急性心筋梗塞に移行する人もいます」

 ACS治療の第一選択は、「経皮的冠動脈インターベンション(PCI)」によるステント留置術だ。足の付け根や手首からカテーテルを血管に差し込み、詰まった部分に到達したところで血管を広げ、小さな筒(ステント)を留置して、滞った血流を復活させる方法だ。

 PCI以外の治療法に、詰まった部分を迂回する新しい血管をつなぐ「冠動脈バイパス手術」がある。

 バイパス手術は、心臓弁の治療も必要な場合やステントを入れても再び狭窄が起こる可能性が高い場合、3本の冠動脈の全部にひどい狭窄がみられる場合など、稀なケースに限られる。

「当院でもACSは年間150例以上ありますが、バイパス手術はそのうち10%以下です」(鈴木医師)

 栗原さんは、処置が早かったことで心臓機能には大きな障害は受けなかったが、「二度とこんな経験はしたくない」と生活改善にも取り組んだ。ヘビースモーカーから一転、禁煙にも成功。今は薬を飲みながら月一回通院する生活だ。

 一方、処置までに時間がかかり、血流が回復しないケースもある。そうした場合に有効な新しい薬物治療「エポチンベータ投与療法」が現在、臨床研究中だ。

「エポチンベータは、体内のホルモンを人工的に合成した薬剤です。腎性貧血治療の保険適用薬で副作用も少なく、どの病院でも用意できます。また点滴で簡易に処置できるので、今後心筋梗塞に伴う心機能低下を食い止める治療法として期待されています」(同)

週刊朝日  2013年7月19日号