家庭用の魚焼きグリルで焼いた。串打ち技術が未熟なせいか、身がずいぶん縮んでしまった(撮影/門間新弥)
家庭用の魚焼きグリルで焼いた。串打ち技術が未熟なせいか、身がずいぶん縮んでしまった(撮影/門間新弥)
2尾分の蒲焼をのせた特上鰻丼の完成。見た目、香りともに申し分のない出来栄えだったのだが(撮影/門間新弥)
2尾分の蒲焼をのせた特上鰻丼の完成。見た目、香りともに申し分のない出来栄えだったのだが(撮影/門間新弥)
臭みのもととなる脂を落としきれず残念な結果に。食欲に負けたツメの甘さを反省中(撮影/門間新弥)
臭みのもととなる脂を落としきれず残念な結果に。食欲に負けたツメの甘さを反省中(撮影/門間新弥)

 土用の丑の日が近づくにつれて恋しくなるウナギ。天然ウナギは今年も高値が予想されるが、実はウナギは東京の川にも生息しており、素人でも釣ることが可能だという。ウナギ釣り名人の三橋雅彦さんの指導のもと見事ウナギを釣りあげた、フリーライターの北尾トロ氏。しかし、釣り上げてからも大きな仕事が待っていた。

*  *  *

 いよいよ、自ら釣って自ら調理する特上鰻丼が近づいてきたが、まずはさばかなければならない。ウナ太、ウナ吉(名前を付けた)よ、許してくれ。

 ホームセンターで買った細長い板がまな板代わりだ。よく切れる包丁、目打ち用の千枚通し、竹串などをそろえ、ウナギを台所に運び込むと「やるぞ!」と雰囲気が高まってくるわけだが、実際には逃げ回るウナギに手を焼き、まな板にのせることもままならない。インターネットのサイトを参考にし、ビニール袋に入れて30分ほど冷凍庫で冷やし、ウナギの動きを鈍くする。

 おとなしくなったウナギを目打ちすると、頭部を刺されたショックでウネウネ動きだした。さすがの生命力……と納得してる場合じゃないんだが。そんなに動いたら包丁が使いにくくて困るじゃないか。

 ここからは、たっぷり1時間の格闘になった。素人の技術では包丁が入っていかない。中骨に沿って背開きにしたいのに、身が締まっていて、おいそれとはいかないのだ。ワイルドなウナギだけあって皮も硬く、竹串より鉄串がいいだろう。これは力感あふれる男の仕事だなぁ。子どもに見せたらオヤジを見直すんじゃないだろうか。

 さあ、どうやって食べるか。ここは王道の蒲焼きでいこう。一度蒸してから、余分な脂を落とせる魚焼きグリルで挑戦した。コンロの下についている、魚を焼くアレですね。肝吸いも作ろうと思っていたのに、すっかり忘れてしまい、思い出したときには生ゴミ袋の中だった。興奮しすぎだ。

 ウナギはよく焼くべし。三橋さんのアドバイスを守り、弱火でジックリ慎重に焼いていく。程よい色になったところで、市販のウナギのタレを塗っては焼き、塗っては焼きを繰り返す。う~ん、これがシアワセってやつなのか。

 出来上がった2尾分の蒲焼きをご飯の上にのせて完成だ。串打ちと盛り付けの甘さからくる形の乱れはともかく、専門店のそれに勝るとも劣らない鰻丼である。店で食べたら3千円、老舗なら5千円の値がつくのでは?って、何なんだその皮算用。

 豪快にかぶりつく。鼻をくすぐるタレの香りに続き、柔らかな身が舌に触れる。それを噛(か)んだ瞬間、重厚かつ濃厚な味がほとばし……らなかった。

「く、臭い!!!」

 油断があった。焼きが足りなかったのか、皮にドブ川の匂いを凝縮したような強烈な匂いが。痛恨のミスだ。なぜ味見しなかった。順調すぎる流れに浮かれ、自信過剰になっていたのか。だが、天国に旅立ったウナ太とウナ吉のためにも残すわけにはいかない。泣きそうな気分で完食したが、臭みは消えず、翌日の夕方まで食欲を奪った。

 ウナギ料理の神髄は、さばきと焼きの腕にあり。専門店はダテに高い料金を取るわけではないのである。

週刊朝日 2013年7月19日号