7月4日に公示された参議院選挙。作家の室井佑月氏は、マスコミが行ってきた公示後の自主規制に関して、次のように持論を展開する。

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 この原稿を書いているのは7月1日。あと3日で参議院選挙が公示される。この原稿がみなさんの目に触れる頃には、選挙戦に突入している。あたしは文章を書くようになって17年、テレビに出るようになって13年だが、公示後に選挙について語るのは良くないことだと業界の人々に教えられてきた(厳格にではないが、絶対であった)。公示後、選挙について大っぴらに語ってよいのは、完全に中立をうたっている媒体だけ。

 で、今までそれを守ってきたわけだけど、それは法律とかできちんと決められているわけじゃないんだね。業界の暗黙のルールみたいなもん。公職選挙法を調べてみたら「不特定多数への法定外文書図画の頒布」は禁止されているが、それは公示日から投票日前日までの候補者の情報発信が制限されるってことみたいだ。特定の人物の応援や、特定の人物のスキャンダルでなければ、べつに意見をいってもいいんじゃね。てか、いうべきなんじゃね。

 そしてこの国がどういう方向の未来を目指すのが良いのかわかりづらい今、報道機関も個人で意見をいって飯を食っている人も、政党の批判や政策の非難は、もっとビシバシしつこいくらいにやるべきだとあたしは思う。本気で、投票率を上げたいのであるのなら。

 メディアでは選挙前になると、「選挙に行きましょう」と盛んに報道する。けど、それだけじゃ駄目なんだ。国民が選挙に行くのは義務じゃない、権利なんだ。

 自分の権利をいちばん有効に使うにはどうしたらいいか、もっと詳しく教えてくれよ。あたしの望んでいる未来について、この政党は真逆のことを考えていて、この政党はまだマシ、みたいなことだ。選挙になればどこの政党も良い話しかしなくなるし、悪い話は隠そうとするから、できるだけその隠した部分を暴いて欲しい。

 たとえば原発について、TPPについて、この国の弱者について、あんたら本音ではどう思っているの? 強烈に知りたくなるのは、やっぱ公示後だ。普段は自分の生活にいっぱいいっぱいで、権利について考える余裕がないもの。選挙カーが走り回っているのを見て、ようやく自分の権利について思い出す。とにかく、公示後の意味の無い発言規制をなくして欲しい。報道機関も中立にこだわるあまり、中立になっていないのではないかと思う。

 現状のままでは既存の力があるところが有利だろう。だって、報道機関は公示前も記者クラブ制度などにより、報道が一律で一方通行なんだから。

 あたしもなんでもっと早くにこの問題について、書けなかったかな。公示後の注意をされなきゃ、思い出せなかった。書きたいことがほかにもたくさんありすぎて。

週刊朝日 2013年7月19日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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