今、一番守らなければならないのは妊娠前半期の妊婦だ。周囲の人間の適切な対応が求められている (c)朝日新聞社 @@写禁
今、一番守らなければならないのは妊娠前半期の妊婦だ。周囲の人間の適切な対応が求められている (c)朝日新聞社 @@写禁

 感染を広げている風疹は、これまでと異なる大人を中心とした拡大で、夏になっても収まりそうにない。ワクチンはもうすぐ底をつき、妊婦や家族の不安も広がる。この8月ごろには風疹パニックが日本を撃つかもしれない。それにも動じない、冷静な対応が求められる。

「そちらでは風疹のワクチンを打てますか? 何件も問い合わせているのですが、断られてばかりで……」

 さいたま市のすずひろクリニックにこんな電話が多くなったのは、6月半ばのことだ。風疹の大流行が続く中、ワクチンが不足するとメディアで報じられ始めていた。6月14日に厚生労働省が「8月にも風疹ワクチンが不足する」と見通しを公表すると、問い合わせは一気に増えた。

「とくに妊婦さんの問い合わせでは、『夫にワクチンを打たせたい』という内容が多く、夫からの電話も少なくありません。切羽詰まった感じが、こちらにも伝わってきました」(同クリニック院長の鈴木王洋=きみひろ氏)

 現在、日本で風疹が近年にない猛威をふるっている。兆しを見せ始めたのは昨年の春ごろで、今年になって感染者数が一気に増えた。国立感染症研究所のまとめによると、最新の2013年第25週(6月17~23日)までの累積感染報告は1万1489人で、すでに昨年1年間の総数の5倍、一昨年の30倍にも達している。

 今の流行は近年になく感染者数が多く、これまでと違う傾向もあるというのが、専門家の見方だ。

 福岡市立西部療育センターのセンター長で小児科医の宮崎千明氏は、こう話す。

「大人、とくに20~40代の成人男性に多く患者が出ているのが特徴です。1990年ごろまで風疹は子どもの流行が中心でした。春先から流行しはじめ、夏の終わりごろに終息していました。これはちょうど子どもが学校に行く期間と重なる。夏休みで学校に行かなくなると、感染ルートが途切れるので感染が落ち着くのです。しかし、今回の感染は大人の間で起こっています。集団で長期休暇を取ることがないので、感染ルートが途切れません。8月以降も流行が収まらない可能性はあります」

 国立国際医療研究センター国際感染症センター医長の金川(かながわ)修造氏も、同様の見方だ。「多くの人が休暇を取った後の8月のお盆すぎが、ひとつのターニングポイントでしょう。そこで落ち着かなければ、ダラダラとこの状態が続くと思われます」。

 風疹はインフルエンザと同じ飛沫感染だ。せきやくしゃみなどでウイルスが飛んで他人にうつる。やっかいなことに潜伏期間が2~3週間あり、感染している本人は無症状で気付かず、知らないうちに周りの人にうつしてしまう。

 おまけに風疹は感染力が強い。一人が何人に感染させるかを示す指標では、インフルエンザは約2人に対し、風疹は7~8人にもなる。ウイルスの性格が違うため一概には言えないが、職場内や通勤の電車の中は感染リスクが高く、今回の大流行の要因の一つであると考えられている。

「風疹はマスクや手洗いでもある程度予防できますが、できれば人混みを避けることが望まれます。もっとも有効なのはワクチン接種です」(金川氏)

週刊朝日 2013年7月19日号