救難飛行艇「US2」 (c)朝日新聞社 @@写禁
救難飛行艇「US2」 (c)朝日新聞社 @@写禁

 ヨットで太平洋横断に挑んでいたキャスターの辛坊治郎さん(57)と全盲のセーラー岩本光弘さん(46)が6月21日朝、宮城県金華山の南東約1200キロの海上で遭難したが、同日夕、海上自衛隊によって救助された。この救助が可能だったのは、海自がテレビ人形劇「サンダーバード」さながらの、高性能救助機を保有していたからだった。

 通常の海難事故では、海上保安庁の巡視船がヘリを搭載して駆けつけるが、これだけ距離があれば、現場到着まではどう急いでも24時間以上かかる。海自の艦艇でもそれは同様だ。遭難後、辛坊さんらは浸水したヨットを離れ、救命いかだに移っていた。海上は波が高く、一夜を救命いかだで過ごすのは危険で、当日中の救助が望まれる局面だった。とはいえ、この海域まで直接到達できるようなヘリはない。米軍の新型輸送機オスプレイでも行動範囲外の距離だった。

 だが海自には、4500キロという長い航続距離を誇る救難飛行艇「US2」があった。しかもこのUS2は、波高3メートルもの荒れた海面でも離着水が可能という優れた安定性を持っている。自衛隊機では珍しい国産航空機だが、実はこれだけの性能の飛行艇を持つ国は世界でも日本だけだ。他国にも飛行艇はあるが、いずれも湾内や湖といった静かな水面での離着水を想定したもので、厳しい条件下の外海での運用は想定されていない。外海での救助は“船舶とヘリのセット”というのが世界のスタンダードで、どの国も外海対応の救難飛行艇を作るという発想すらないようなのだ。

 US2の製造元は新明和工業(兵庫県宝塚市)。戦時中は川西航空機という社名で、二式飛行艇や紫電改戦闘機といった優れた軍用機を製造した。長年蓄積されてきた技術が、主要国に比べて遅れている日本の航空機産業界で唯一、世界高性能と呼べる救難飛行艇の開発に結びついている。

 救助された辛坊さんは記者会見で、「この国の国民でよかった」と語った。さまざまな思いが背景にはあっただろうが、なにより「US2がある国でよかった」ことは間違いない。

週刊朝日 2013年7月12日号