ステージで劇場再開を訴える叶麗子さん。「あきらめたら、そこで終わりよ」と話すと、客席から嗚咽(おえつ)が漏れた(撮影/写真部・馬場岳人)
ステージで劇場再開を訴える叶麗子さん。「あきらめたら、そこで終わりよ」と話すと、客席から嗚咽(おえつ)が漏れた(撮影/写真部・馬場岳人)

 大阪の名物劇場・通天閣歌謡劇場が24年の歴史に幕を閉じることとなった。慣れ親しんだ劇場の閉鎖に、足繁く通った人々は悲しみの表情を浮かべる。

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 なあ、いい劇場やろ。ここにいてる人はみんな家族や。せやのに、なんでなくなるんや。なあ、あんたもそう思わへんか……。

 NHKの連続テレビ小説「ふたりっ子」(1996~97年)の舞台にもなった大阪・新世界の通天閣歌謡劇場(スタジオ210)。6月18日、ここに集まった観客たちは口々にこう話した。

 89年のオープン以来、歌い手と聴衆の一体感が魅力だった。ところが、運営する通天閣観光は先月、6月で劇場を閉鎖することを発表した。

 関係者によると、週1回の歌謡劇場は盛況だが、そのほかの曜日の利用者が減り続け、経営上の判断で閉鎖せざるをえなくなったという。7月12日から9月8日まではお化け屋敷とし、その後に建物の補修・改装工事をする。劇場としての再開予定はない。

“通天閣の歌姫”として舞台に立ち、「ふたりっ子」のオーロラ輝子のモデルにもなった叶(かのう)麗子さん(50)は言う。

「ここはね、心に重い荷物をしょった人が来るところなの。それが劇場で元気もらって、少しだけ荷物を下ろして軽くなって、普通の生活に戻る。客席がガラガラで、赤字続きやったら私もあきらめがつくんです。でも、人がいっぱいいるんです。そんな人たちを大切にしたいんよ」

 叶さんは今、劇場の存続を求めて署名活動をしている。目標は10万人。18日には1日で約1万人の署名が集まった。

 願わくば、時計の針を戻してほしい――。この日の客席は、そんな思いで涙を流す人であふれた。オープン当初から通い続けた山本明彦さん(52)は、取材中にも声を詰まらせた。

「これからどうやって生きていけばいいんや。記者さん、教えてよ……。この辺はな、昔は飲んだくれの日雇い労働者ばっかりやった。それがキレイになって、今日もぎょうさん人が来てくれた。場末(ばすえ)の劇場やと思ってたけど、最近わかったよ。ここは日本一や。みなさんのおかげや……。ありがとう、ありがとう。ホンマ、ありがとう」

 最終公演は28日。叶さんをはじめ、総勢20人の歌手が集う。公演のタイトルは、再開の願いを込めてこう名付けた。

“~また逢う日まで~”

週刊朝日 2013年7月5日号