6月15日、東京・秩父宮。日本ラグビー界の長年の悲願が成就した。強豪ウェールズを23対8で撃破。1926年に日本協会が設立して以来の大金星で、スポーツ各紙は1面級の扱いでこれを報じた。代表を率いるのは世界的名将、エディ・ジョーンズ・ヘッドコーチ。彼のもとで、「エディ革命」と呼ばれるチーム作りが進行している。

 ウェールズは今年の北半球王者であり、世界ランキング5位。日本は15位。また、この1勝は、ニュージーランドやイングランドなど、国際ラグビー評議会創設8カ国との対戦で、相手も正式なテストマッチと認めた試合での初勝利となった。1973年のフランス戦以来、 27戦目でようやく挙げた白星だ。ラグビージャーナリストの村上晃一氏が勝因を語る。

「エディ氏のチーム作りが明確なんです。とにかくフィットネス。強豪国と日本の選手とでは体つきが全然違いますから。そのため選手たちに、筋力を増やし、かつスピードを落とさない体づくりを課しました。レギュラーの一人は、昨春92キロだった体重が100キロまで増加し、より激しくタックルができ、走りきれるようにもなった。歴代で最も練習している代表です」

 ヘッドコーチ(HC)のエディ氏は、豪州出身の53歳。2003年のラグビーワールドカップ(W杯)で同国を準優勝に導き、07年には南アフリカの技術アドバイザーとして優勝。「実績は世界5本の指に入る」(ラグビー関連の著作が多いノンフィクションライターの松瀬学氏)。12年4月に代表HCに就任する前は、トップリーグのサントリーで監督を務め、奥さんは日本人だ。いわゆる「エディ革命」とはいかなるものか。

「今までの代表は、集合すると試合に向けた戦術の練習が多かった。一方で体づくりは所属チームに任せている。プロ野球のように、国内リーグのレベルが高ければ即世界で通用しますが、ラグビーはまだそこまでではありません。だから代表で選手を鍛える方針なのです」

 こう話すのは岩渕健輔日本代表ゼネラルマネージャー(GM)だ。自身も日本代表やイングランドの強豪クラブでプレーした経験を持ち、体格をはじめ差を実感してきた。

 エディ氏が選手を鍛える方策の一つが4部練。「体は小さくても強くできる」と、合宿では午前5時半の早朝トレーニングに始まり、さらに午前、午後は2回と、1日4度も練習する。タンパク質の量を増やすなど食事も徹底的に管理した。選手にGPSを装着させ、動きを数値化し、メディアに積極的に公表して選手を刺激する手法も特徴だ。

「これまでGPSを導入したチームでは、主に『今週何キロ走ったから次週はこれぐらい』というコンディション管理に使っていた。今の代表は、世界のトップレベルのゲームの強度以上で練習できているかをGPSでみています」(岩渕GM)

 例えば、1時間の練習で3キロ走ったとなれば、毎分50メートルに過ぎない。

「強豪国との試合を考えたら、そんな数値で何時間練習しても意味がありません」(同)

 専門コーチを招き、さまざまなデータを取り、より効果的なトレーニングができるようになったという。

 今回、ウェールズは1軍級が抜けたメンバー編成だったが、「勝ったことは大きな進歩です」と村上氏は言う。過去同じような編成で来日した強豪国に、大敗を繰り返してきたからだ。今回の勝利は、日本開催が決まっている19年のW杯に向けてもいい影響があるという。

※週刊朝日 2013年7月5日号