英国・北アイルランドで開かれるG8に参加するため、6月15日から外遊中の安倍晋三首相は、その足でポーランドを訪問し、中欧4カ国の首相と会談を行う。

 日本企業の原子力発電所受注に向け、トップセールスを展開するためだ。だが、その足元では“煙”が立ちのぼりつつある。

「首相はいつから原発メーカーのセールスマンになったんだ。国内で説明責任を果たしていないのに売り込みが先では、日本国民に失礼ではないか!」。12日、原発推進に懐疑的な自民党議員らが集まった集会で、講師役のベテラン議員が拳を振り上げた。

 5月にはトルコで原発受注を確実にし、UAEとは原子力協定に署名。サウジアラビア、インドとも協定締結への協議開始で合意した。あまりののめり込みぶりに、今はまだ少数派の冒頭のような反対論が生じつつあるのだ。

 就任時には「3年間で再稼働について判断する」と語った安倍首相だが、肝いりの産業競争力会議が6月12日にまとめた成長戦略には、早くも「原発再稼働」が明記されていた。

 実は、会議で楽天の三木谷浩史会長兼社長(48)や慶応大の竹中平蔵教授(62)、ローソンの新浪剛史社長(54)などから、再稼働への慎重論が出ていた。特に三木谷氏は、《原子力発電については、事故が発生したときの被害が極めて大きいので、再稼働は慎重に考えるべきである。成長戦略にこれを記載することは適当でない》と記したペーパーまで配って猛反発したが、黙殺された。

 元経産官僚の古賀茂明氏が、ため息交じりに語る。「福島第一原発の事故を受けて勢力が衰えていた原子力ムラですが、今や完全に復活しつつあります」。14日には、非公開で行われた自民党の資源・エネルギー戦略調査会の会合で、会長の山本拓元農水副大臣(60)が「原発再稼働の可否は、立地首長の判断に委ねられる」という内容の文書を配った。ところが、原発推進派議員たちが「(文案を)回収しろ!」と噛みついたのだ。

 国策として原発再稼働を進める以上、国に主導権を残しておかないと、自治体に生殺与奪の権を握られる、という論理だ。山本氏が「しません」と机をドンドンたたいて反発すると、外野からヤジが飛ぶ大騒ぎになったという。

「7月に原子力規制委員会の新規制基準が施行されるタイミングで、関西など電力4社が再稼働を申請する。推進派は再稼働議連なんてつくって道筋をつけようと盛り上がっているよ」(官邸関係者)

 なし崩し的に原子力ムラの復権が進んでいるのだ。

 だが、2011年3月11日の東日本大震災直後の日本はまったく違う空気だったはずだ。当時の菅直人首相は「脱原発」を宣言した後、退陣に追い込まれた。紆余曲折を経て野田佳彦首相が翌年9月14日、「2030年代に原発稼働ゼロ」の方針を打ち出し、原子力ムラは絶体絶命の危機を迎えた。

 ところが、わずか5日後、「原発ゼロ」の閣議決定は見送られ、腰砕けとなる。

 電力業界などの圧力に屈したといわれたが、裏には米国の“外圧”もあった。当時の政府高官が明かす。「原発を動かさなければ、日本がこれまでに青森県六ヶ所村などにため込んだプルトニウムを使うアテがなくなる。『それを処分するプランはどうなっているのか』と米政府に問われたとき、何も回答できなかったのです」。

 ポイントは核廃棄物「再処理」だ。原発で燃やした使用済み核燃料は、「再処理」で取り出したプルトニウムを使って、再び核燃料に加工することが可能だ。ところが、プルトニウムは核兵器にも転用できるため、使用する見込みもなく大量に保有する日本に対し、国際社会で「核不拡散」を声高に主張するアメリカが警戒したのである。

週刊朝日 2013年6月28日号