俳優の古田新太氏は、「人が食べているのを見ると絶対に食べたくなってしまう」というあの食べ物について、こう話す。

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 現場の差し入れに、よくインスタント麺がある。こいつが助かる。映像の現場でも、舞台の現場でも、手弁当の時がある。毎回毎回、弁当やケータリングがあると思ったら大間違いだ。特にロケや地方公演では、どうしてもコンビニ弁当やおにぎり、サンドイッチということになる。そんな時、お湯さえあれば温かいものが食えるカップ麺は、有り難いことこの上ない。ミニカップとか春雨なんかは、スープ代わりになったりして、おにぎりを買っていくだけでいい。そんなもなぁ買っていきゃあいいじゃねえか、と言うなかれ、差し入れであるということが大事なのだ。ケータリングスペースに段ボールやら大きな袋やらにドカンとあるのが、買い忘れた時うれしいし、今日はあいつをってな楽しみになるのだ。

 そこで、である。今回のテーマ「人が食ってんのを見ると絶対に食いたくなる」である。

「カレーヌードル」、こいつは駄目だ。こいつだきゃあ、人が食ってんのを見ちゃったが最後、30秒後には蓋を半分開けて熱湯を注いじまってる。

 
そして、このウイルスは伝染する。何人かのキャスト、スタッフ(古田調べによると5対2の割合でスタッフが多い)が、湯沸かしポットの前に並ぶ。そしてお約束の「あー、お湯無くなった!!」である。不思議なことに、この現象はカレーヌードルに限るのである。みんなに人気の「とんこつ」や「シーフード」「みそ」などの味はあまり伝染しない。やはりウイルス性の強いのは「カレー」なのだ。しかも「日清のカップヌードルカレー」に限るのだ。確か売り上げは、ノーマルカップヌードル、シーフードの方が上だったような気がする(うろ覚え)。が、感染性はカレーヌードルの方が高い。これは然るべき人に調べていただきたい。

 友人は「匂いだ」と断言していたが、それだけではないと見た。カレーヌードル独特のねっとりとしたスープの麺に対する絡み方、すすった時の唇への触感の記憶。もしかしたら、最後に残るスープのザラザラに秘密があるのか。あの肉っぽい茶色の塊に、何か混ぜてあるのか。あの茶色い塊、食べるとうれしい気持ちになるのだが、日清さん、単品で売り出さないかな。フリーズドライだから、軽くて非常食とかによさそうなのに。おいら買うけどな、あえて袋麺に入れて食いたいけどな。なぜ商品化しない、怪しいな茶色い塊(あいつ)。いや待て、あいつはノーマルカップヌードルにも入っているぞ。ノーマルカップヌードルの感染性に関しては、カレーヌードルに劣る。ふむ、何らかの秘密を隠してはいるが、感染には関係無さそうである。あの茶色の塊に関しては、別の機会に改めて考察する必要がありそうだ。

 おっと、寄り道している間に、字数が尽きてしまいそうだ。まだ何も「カレーヌードルの感染性」について究明できていない。ただ、友人の言う「匂い」というのは大きな要素ではあるが、それだけではない、人間の記憶に対する郷愁のようなものが絡んできていると思うのだが。

 ええい、カレーヌードルだけでここまできてしまった。よし、次回もまた「人が食っていると絶対食べたくなるII」でお会いしましょう。

週刊朝日 2013年6月21日号