株価が乱高下するなど、好調だったアベノミクスに暗雲がたち込めてきた。そこで東証1部上場企業1606社の過去5年間の業績を調査したところ、不況に弱いのは終身雇用・年功序列・企業別労組という日本的経営の特徴を持つ非オーナー企業だった。(今回の調査では、オーナー企業の定義を「株式順位トップ10以内に、役員またはその一族がいること」とした)経営ジャーナリストの渡邉正裕氏がレポートする。

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 一方で、非オーナー企業群で、結果(5年間で経常利益34%減)に大きく影響したのが、1位トヨタ自動車、2位パナソニック、3位東京電力、4位ホンダ、5位関西電力、6位ジェイ エフ イーホールディングス、7位新日鐵住金、8位キヤノン、9位任天堂、10位九州電力、11位武田薬品工業、12位東北電力、13位中部電力、14位野村ホールディングス、15位シャープ、16位日産自動車、17位大和証券グループ本社、18位商船三井、19位リコー、20位ソニーである。前述の「日本的経営」の権化とも言える、戦後日本の経済成長を牽引してきた大企業が、名を連ねる。原発停止要因で収益悪化した電力会社も多数ランクインした。

 ワースト1位は、トヨタ自動車。1兆9496億円という途方もない減り幅を見せた。2位はパナソニックで、8千億円超もの赤字転落のため、1兆2519億円の減少となった(※トヨタは、創業家の豊田章男社長が個人で458万1千株を保有するが、全体の0.13%に過ぎず、今回の定義においては、オーナー企業から外れている)。

 企業の将来価値を示す時価総額も激減し、トヨタは半分以下に、パナソニックは3分の1になってしまった。社員の平均給与も軒並み減少し、社内の不満は当然、高まっているはずだ。

 これらの非オーナー企業は、経営者が急速な環境変化に対応できず、不作為のまま業績を悪化させていった印象が強い。

 利益が減れば、法人税収も当然、減る。国の借金が1千兆円にのぼる日本にとって、この減り方は、危機的な状況というほかない(トヨタは日銀による人為的な円安政策と好調な北米・東南アジア経済という主に外部要因によって業績が急回復したが、外部要因で回復したものは、容易に外部要因の変化で再度、悪化する可能性がある)。

 現場社員を取材すると、これら非オーナー企業から出てくる声は、決断できないトップに対するもどかしさが目立った。パナソニックの巨額の赤字は、薄型テレビ事業の失敗が主因である。営業の中堅社員が解説する。

「2007年くらいには、現場では、もうやめたほうがいい、という感じでした。それまで液晶の大型化は厳しいからプラズマが有利と言われていたのに、42型、50型の液晶ができちゃったからです。そしてリーマンショックの翌年、うちの尼崎のプラズマ最新鋭工場が立ち上がった。営業現場では、雰囲気として、『ヤバいぞ、価格がどんどん下がっている』と。でも現場では上司に、『オマエらは、そう思うかもしれん。だが、うちの会社には秘策があると思ってやれ!』と言われていました」

 しかし、結果的に現場の不安は的中し、11年度末で、最新鋭の尼崎工場は操業停止に追い込まれた。

「プラズマをやめる判断をすれば雇用を失うので、明確な理由が必要です。だから、赤字がつかないとやめられない。途中での撤退判断ができない。工場をたたむことは労組も許しません。本来なら、傷が小さいうちに、巨額の赤字を出す前に撤退して、未来が明るい事業に投資すべきですが、実際には、赤字を出してから撤退して……と、ゆっくり変わっていくしかないのが現実です」(前出の社員)

 つまり、社内でダメとわかっていても、撤退の決断を先送りし、傷口を広げた。その結果が、2期連続で7千億円超という巨額の赤字や、社員の大リストラであった。

 一方のオーナー企業では、決断の遅れがすなわち自身で持つ株式価値の減少に直結する。その上、自分一人で決断できてしまうので、ユニクロの柳井正社長の『一勝九敗』(新潮文庫)に象徴されるように、負けが見えた段階で、傷が浅いうちに撤退を決断でき、勝てる事業に集中投資できる。たとえばユニクロの、1年余りでの野菜事業からの撤退(04年)は、実に素早かった。

週刊朝日 2013年6月14日号