「国士強靭化」を掲げる安倍晋三政権の2013年度本予算がようやく国会で成立したが、フタを開けてみれば、公共事業などへの“旧来型のバラマキ”だった。首相のお膝元の山口県でも凍結されていた大型公共事業が続々と“ゾンビ復活”しているという。ジャーナリストの横田一氏が現地を徹底ルポした。

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『道路の権力』の著者で、「道路関係4公団民営化推進委員会」委員でもあった猪瀬直樹・東京都知事の定例会見に出席し、全国の高規格道路(高速道路と自動車専用道路)の適正な総延長距離について尋ねると、こう答えた。

「基本的には(整備計画区間の)9342キロのままという認識です」

「無駄な(採算性の悪い)高速道路は造らない」という方針の小泉政権下で、総延長距離の歯止めは従来の1万4千キロから9342キロに引き下げられ、猪瀬氏らは同委員会で、どの不採算路線の建設を凍結するかで激論を交わしたものだった。

 しかし、「国土強靭化」を掲げた安倍政権が誕生すると、まるで小泉政権時代の議論がなかったかのように、1万4千キロが既定路線に戻りつつあるのだ。かつて道路族と闘った同委員の一人も嘆く。「今では不採算路線を全部つなげようとしている。あの時の議論を忘れ去らないでほしい……」。

 たしかに嵐のようなアベノミクス称賛報道の裏で、以前なら集中砲火を浴びたはずのバラマキ政治が復権しつつある。安倍政権誕生で、大手を振って霞が関を闊歩し始めたのは国土交通省道路局だ。これまでは建設対象外だった不採算路線を盛り込んだ「全国ミッシングリンク(未開通路線)の整備」(1万4千キロ)を発表し、ホームページにも掲載。

 これに呼応するように安倍政権は5月に成立した2013年度の本予算でミッシングリンクなど道路整備に1兆1594億円を盛り込んだ(2月の12年度補正予算で623億円を計上)。高速道路整備の歯止め(9342キロ)を取っ払い、1万4千キロの目標に向かって邁進し始めたのだ。

 そして小泉政権下で不採算路線としてダメ出しされたにもかかわらず、ゾンビのように復活した一つが、安倍首相のお膝元・山口県下関市と鳥取県を結ぶ「山陰自動車道」だ。そして国交省は山陰自動車道の一部として今年度から着工される山口県長門市の「長門・俵山道路」に5月15日、16億円の予算の箇所付けをしたと公表。安倍家の地元である長門市関係者らは「山陰自動車道・長門―下関実現への大きな一歩を踏み出した」と期待する。

 4月末、山口市内のホテルの祝賀会場で歓喜の声が上がった。7月の参院選を占う前哨戦とされた「参院山口補選」で、自民党公認候補の江島潔・前下関市長が圧勝し、安倍首相の祝電が、「力強い山口県の創造に向け、益々のご活躍を……」と読み上げられた時だった。

 人気者の小泉進次郎衆院議員、石破茂幹事長、さらには安倍首相自らも地元入りし、当選させた江島氏のパンフには「山陰自動車道の整備促進」と明記されていた。私が本人に確認すると、こう意気込んだ。

「ぜひとも全線開通したい。民主党政権では整備が進まなかったが、安倍政権下で必要な道路として復活、整備していきたい」

 しかし、必要性を疑問視する声は少なくない。

週刊朝日 2013年6月7日号