作家の室井佑月氏は、近ごろの経済ニュースに疑問を感じるという。

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 今年の春闘は政府による賃上げ要請で、一部の企業がボーナスアップ要求に満額回答したことが話題になった。

 ほんでもって、テレビでは評論家が出てきて、「アベノミクスにより、日本は景気が良くなり明るくなった」と堂々といっている。ホンマかいな?

 たしかに株の値段は上がって、ボーナスアップした会社もあったことにはあった。しかし、株を買っているのは一振りの生活に余裕がある層だけだし、ボーナスが上がったのも一部の大手企業だけだ。給料アップしたのはもっと少ない、ほんの何社か。景気がほんとうにこれからズンズン良くなっていくというなら、ここらで給料が上がったっていいのにね。物価も上がっていることだし。

 思い返せば数年前、景気が良くなって、高度成長期のいざなぎ景気を上回ったことがあった。しかし、企業は内部留保金を貯めるだけで、サラリーマンの給料は上げてくれなかった。だから今回も、(まったく企業はケチケチしてんな)というふうに受け取ることもできる。が、今回はそれともまたちょっと違っている気がして……。

 結局、安倍総理にせっつかれた大手企業のほんの一部が、しぶしぶボーナスアップに踏み切っただけの話なんじゃないか。というのも、どこの企業からも、「ヒヤッホーッ! これから先、こういう世界展開をしてウハウハになる」という鼻息荒い話が聞こえてこない。

 自分を含め、まわりを見渡しても、景気良さそうにしている人はいない。

 あたしのまわりだけが辛気くさいのだろうか。いや、そんなことないよね。友人のそのまたまわりの人々の生活状況まで聞きまくったが、苦しくなっているか、すっごく頑張って現状維持という人が多いぞ。

 当たり前だよな。給料は上がらなくて物価だけ上がっているんだから。

 なのに、どうしてメディアでは景気が回復してこれから庶民の暮らしぶりも良くなる、という報道ばかりされるんだろうか。

 いくら安倍さんにゴマをすりたいからといっても、その報道には無理があると思う。テレビ局だって、不景気から抜け出したなんて話は聞いてないよ。マジで景気が持ち直しつつあるというのなら、生活保護の受給者が増えつづけているのはなぜ? そして、どうして今、生活保護制度を改正し、利用者のハードルを上げようとしているわけ? 不正受給者のことが話題になったが、それはほんの一部の人間。

 これからズンズン景気が良くなるのなら、受給者は減ってくわけだし、物価も上がっているんだから、むしろ受給額を増やすって展開にならないか。

 言ってることとやってることが矛盾してる。

週刊朝日 2013年6月7日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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