米女優のアンジェリーナ・ジョリーさん(37)が5月14日に明かした乳がん予防の両乳房切除。これは見習うべきなのか。遺伝性乳がんに詳しい四国がんセンター乳腺外科医長の大住(おおすみ)省三医師が語る。

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 当院では、2001年から希望者に対し遺伝カウンセリングを実施。私自身50家系以上の相談にかかわっています。遺伝が原因で乳がんの発症リスクが高まる家系があるのは事実で、可能性のある人が遺伝子検査を受け、リスクが非常に高い場合に予防的に乳房を切除する選択肢を持つことは、大切だと思っています。

 ただ、予防切除だけが対処法ととらえるのは、問題です。乳がんのリスクが高ければ、乳がんの触診やマンモグラフィー、MRI(磁気共鳴断層撮影)検査を頻繁に受けることで、ほぼ確実に早期発見・治療ができます。専門カウンセラーによる支援も不可欠です。

 乳房の予防切除は心理的なダメージが大きい一方、命を救う点では、その意味はそれほど大きくないものと私自身はとらえています。予防切除しても残った乳腺から乳がんが発症することがありますし、乳がんを引き起こす遺伝子変異は、卵巣がんの発症リスクも高めます。乳房切除では卵巣がんの発症リスクは下がりませんが、卵巣切除で乳がんのリスクを半減させられる。ですが、このことはまだ多くの人に知られていません。

 当院では乳房の予防切除をした方はいませんが、卵巣切除をした方はおられます。遺伝性乳がん・卵巣がん治療の普及は、日本乳癌学会でも課題の一つ。当院など一部の施設で診療を行っていましたが、これを機に一気に広まることを期待しています。「自分ももしかしたら」と不安に思う人もいるでしょう。環境が整うまで、もう少しお待ちください。

週刊朝日 2013年6月7日号