若者だけではなく高齢者にも広がりつつあるシェアハウスのように、共同生活の役割分担を行うことで、認知症の改善に大きな成果を上げているグループホームがある。

「こくせい館」(奈良市)には、平均年齢85歳の認知症の高齢者18人が暮らす。施設の外観は大きな一軒家のよう。「なるべく家と同じ環境に近づけたい」という、運営者の奥野正彦さん(53)のこだわりからだ。

 奥野さんは、かつてプロ野球日本ハム球団に在籍し、会社員などを経て福祉の世界に飛び込んだ。経歴を生かし、スポーツトレーナーによるリハビリテーションを導入して機能回復を目指すが、それと並行して、比較的軽度の入居者に食事の準備や、洗濯物たたみといった手伝いを積極的に任せている。

 高齢者たちが思うようにできないことも多く、介護施設としては手間がかかる。それでもあえて挑戦させることで、できた喜びが新たな意欲を生み、自立につながると考えているからだ。

「認知症は改善しないと言われていますが、私はよくなると信じています。高齢者は今まで普通に動けていたのですから、潜在能力はあるはずです。それを引き出したい」(奥野さん)

 要介護度3以上で、車いすを使っていた高齢者が、少しずつ体を動かせるようになったほか、5人の要介護認定が外れるに至った。

 課題もある。同施設は要介護の認定者しか入居できないため、認定が外れると退去せざるを得ない。「こういう環境だからこそ自分で体を動かせるようになったまでで、ここから出たとたんに元に戻ってしまうため、必ずしも喜ばしいことではないのです」。

週刊朝日 2013年5月31日号