6月から近未来の日本を描いた舞台「断色~danjiki」に出演する麻生久美子さんに話を聞いた。

「初舞台のときが、すごく大変だったんです……。難しい内容だったこともあって、お客様から拍手をいただいたときも、どんな思いの拍手なのかなぁと思ってしまったりして(苦笑い)。基本的に、映画でもドラマでも、作品に入るときはいつも不安なんですけど、とくに舞台は怖いです」

 2009年に初めての舞台を終えた直後は、「当分、舞台をやろうという気持ちにはならないだろう」と思っていた。ところが、半年ほどして、「またやりたいな」という思いが湧いてきた。自分でも不思議だった。

 6月、人生3度目となる舞台に挑む。「断色」は、近未来を舞台にした母と息子の絆の物語。麻生さんは、堤真一さん演じる小杉の、亡くなった母親の“クローン”を演じる。

「私が堤さんの母親役なんて(笑い)。最初お話を聞いたときは、ビックリして笑ってしまいました。私、自分が女優に向いているとか思ったことはこれっぽっちもないんですけど、お話を頂くと、つい“やりたい!”と思っちゃうんです。不安に駆られながら作品に入って、プレッシャーと闘いながら乗り越えていったものが、反省点はあるにしても納得できたり、作品として素晴らしかったり。そういう体験が積み重なっていくと、どんどんやめられなくなるんです。お芝居をする上での快感なんていうのはほとんど感じたことはなくて、基本的に苦しいことばっかりなんですけど(苦笑い)」

 子供の頃の夢はアイドル歌手になることだった。その夢はかなわなかったけれど、今は「女優になってよかった」と素直に思う。

「仮に私がアイドル歌手でデビューしたとしても、絶対に売れなかったでしょうね(笑い)。女優という職業は、年齢に応じて演じられる役も変わってくるので、そこも今となっては面白いなと思います」

 昨年5月に女児を出産したが、秋には映画の撮影に入り、今年は連続ドラマ「泣くな、はらちゃん」のあと今回の舞台と、精力的に芝居に関わっている。今秋公開予定の映画「ばしゃ馬さんとビッグマウス」で演じた脚本家志望の女性は、監督自身を投影したとされていることもあり、何度もプレッシャーに押しつぶされそうになった。

「優しい悪魔のような監督が、自分の中に渦巻いているいろんな想いを、役の中に入れたがっているように思えて(苦笑い)。私は心配性だし、勝手にそういう思い入れを感じ取ってしまうほうなので、とにかくその期待に応えたくて必死でした。監督自身も、最後の最後は、私にプレッシャーをかけてたことを認めてましたけどね(笑い)。でも、できあがった作品自体は、『いいものを観たな』と思えたんですよ。とっても地味なんだけれど、大切なものが描かれていた気がする。それが観た人に伝わるといいなぁ」

 そう微笑みながら語る姿は、1児の母でありながら少女のように無垢――。「断色」で、彼女にしか表現できない母性がきっとある。

週刊朝日 2013年5月24日号