その季節に出回る食材を使う。今はたけのこやアスパラガスなど(撮影/写真部・馬場岳人)
その季節に出回る食材を使う。今はたけのこやアスパラガスなど(撮影/写真部・馬場岳人)

 食べること、禅僧はそれを修行ととらえ、手間をかけ心を込めた。「精進料理」を知れば生き方が見える。

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 神奈川・鎌倉駅から江ノ島電鉄に揺られること約10分。潮の香りが漂う稲村ケ崎駅のほど近くに、「不識庵」はある。精進料理研究家の藤井まりさんが、夫である故・藤井宗哲さんとともに精進料理塾「禅味会」をこの地に開いてから、およそ30年の歳月が流れた。

 精進料理とは、修行僧の食事として仏教伝来とともに、日本に広がった。主な食材は、野菜や豆類、穀物、果実などで、肉や魚、香りの強い食材は使わない。その土地で採れる旬のものが中心となり、素食とも言える。

 味付けの基本は「淡」。とはいえ、決して味気ないわけではない。口に含むと、野菜の甘さ、山菜のほろ苦さなど、食材が本来持つ味が引き出され、しっかりと伝わってくる。調和のとれた味わいだ。

「精進料理には、その背景に哲学がある」と、まりさんは話す。仏教は、調理や食事すらも修行の一環ととらえてきた。その根底にあるのは、心の持ちようだ。それは精進料理のみならず、「食事を作り、食べる」ことを含めた私たちの日常行為すべてに通じる。

週刊朝日 2013年5月24日号