円が4年1カ月ぶりに1ドル=100円の壁を越えた。これは黒田東彦(はるひこ)・日銀総裁が打ち出した「異次元の金融緩和」の「果実」だろうか?

「異次元の緩和」は、黒田総裁が4月4日に打ち出した新しい金融政策のこと。企業や個人が借金しやすくする政策を金融緩和と言う。黒田総裁はこの日の会見で、「これまでとは次元の違う金融緩和です。戦力の逐次投入をせずに、現時点で必要な政策をすべて講じた」と、胸を張った。

 目玉は、日銀が世の中に流すお金の量(マネタリーベース)を2年で2倍の270兆円にするというもの。お金の量は過去13年間で2倍になったが、わずか2年でさらに2倍にする過去最大の「荒業(あらわざ)」だ。

 具体的には、日銀が満期まで1年以上を残す長期国債を、銀行などからこれまでの2倍近い月7兆円買う。国が毎月発行する国債の金額の7割にものぼる。しかも、満期までの期間が長い国債を手厚く買う。短い国債だとすぐに満期を迎えてしまい、お金の量が増えないからだ。

「黒田日銀」はこの「異次元の緩和」でデフレ脱却、すなわち日銀が今年1月に導入したインフレ目標の達成をめざす。2年程度で、消費者物価指数を前年よりも2%上昇させる政策だ。

 この政策について、早くからインフレ目標の導入を提唱してきた専門家は手放しで称賛する。

「完璧です」(東京大学大学院の伊藤隆敏教授)
「ほぼ満点です」(マネックス証券の松本大社長)

 黒田総裁は「2%」「2年」「2倍」と、語呂合わせのように「2」を連発し、新しい政策を説明した。そして、この政策は、2%の物価上昇が「安定的に持続するために必要な時点まで継続する」とも言い切った。

「金融緩和を小出しではなく一気にやると宣言し、その効果も十分に説明しました。ここが次元の違うところです。2%のインフレになる、景気がよくなるという期待を人々が持つように働きかけたのです」(伊藤教授)

 投資家にとっても同じだったようだ。「『景気は気から』です。どんな政策を講じても、金融市場の参加者の行動に何らかの影響を与えないと意味がない」(松本社長)。

週刊朝日 2013年5月24日号