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田原総一郎「北朝鮮のミサイル騒ぎで笑う国と、困惑する国」

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 朝鮮戦争の休戦協定白紙化など強硬な姿勢を見せている北朝鮮。ミサイル発射問題も騒がれているが、ジャーナリストの田原総一朗氏はこう話す。

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 つい数日前まで、どの新聞もテレビも北朝鮮の脅威についての報道が連日繰り返されていた。中距離弾道ミサイル「ムスダン」を今日にも明日にも発射する。韓国を狙うのか、日本国内の米軍基地を狙うのか、あるいはグアムなどの米軍基地を直接狙うのか、などと大々的に報道され、週刊誌などは「第2次朝鮮戦争か」などと書き立てた。

 また、北朝鮮は朝鮮戦争の休戦協定を白紙化する、あるいは南北が共同で事業を行う開城工業団地への韓国人の入所を厳禁するなど、今にも戦争を始めそうな宣言を次々に打ち出し、新聞やテレビが大きく報じた。北朝鮮がすぐにでも、日・韓・米のいずれかに「ムスダン」を撃ち込みそうな緊張感が充満していた。

 だが、緊張感があふれていたのは、実はマスメディアだけだったのである。新聞もテレビも24時間態勢で、報道部員たちはへトへトになっていたのだが、北朝鮮の脅威などは、実はまったくなかったのだ。いわば茶番劇だったのである。

 北朝鮮の金正恩は、父親の金正日が死去したので若くしてトップになった。しかし、何の実績もなく、また父親とは違って、トップとして鍛えられていない。だから、当然ながら軍からも国民からも信用されていない。金正恩自身、まったく自信がない。不安でいっぱいだ。そこで彼がやることは、ひたすら強気に出ることであった。外部に敵をつくり、挑発しまくることで、内部の緊張感を高めることであった。

 つまり、「北朝鮮の脅威」は金正恩の弱み隠しのための芝居であり、馬鹿げた内部事情でしかなかったのだ。そして、日・韓・米のいずれかでも本気で怒らせたら北朝鮮が壊滅的ダメージを受けることは、誰よりも金正恩自身がよく知っている。

 そして、金正恩の馬鹿騒ぎを、「しめしめ」と歓迎している政府が三つある。日・韓・米の政府だ。北朝鮮のために、さもなくば国内で極めて反対の強い安全保障の強化、つまり軍事力の強化をすることができるからだ。韓国では反日感情が強いのにもかかわらず、日・米との関係を強めることもできた。

 朝鮮戦争の休戦協定白紙化に、日本のマスメディアは大騒ぎした。だが、休戦協定は米・中・北朝鮮の3国が結んだものであって、韓国の李承晩大統領(当時)は、板門店が休戦ラインである38度線の南だ、などと怒って参加していないのである。米・中の承認がなければ、休戦協定を白紙になどできないのだ。開城工業団地の封鎖にしても、マスメディアは緊急事態だと騒いだが、団地内の韓国人たちはほとんど帰国していない。現地では危機感も緊張感もなかったのである。

 ところで、北朝鮮の馬鹿騒ぎで困惑している国もある。中国にとっては朝鮮半島が南北に分断され、北が中国を頼りにしている現状が望ましいのであって、北朝鮮が騒ぎすぎると、日・韓・米から何とかせよと責任を追及されるからである。

 北朝鮮の現状は、母親である中国と一緒にデパートに行った子どもが、オモチャをせがんだのに買ってもらえなくて、デパートの床に倒れ込んでギャーギャーわめいているようなものだ。もちろんわめいている子どもが北朝鮮である。

 だが、母親は子どもを放って帰るわけにはいかない。結局オモチャを買う。つまり北朝鮮への援助を増やすしかないのではないか。

週刊朝日 2013年5月3・10日号


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