「ボケたくない」は皆の切なる願い。だが、65歳以上の10人に1人が認知症だ。男性より女性に多いのが記憶や情報整理をつかさどる海馬が機能不全となり発症するアルツハイマー型認知症。ボケを防ぐための最強の処方せんをお伝えする。

 女性のアルツハイマー病発症率は、男性の2~3倍にもなる。かつては「長寿だから」と考えられていたが、最近は女性ホルモン(エストロゲン)の影響が明らかになってきた。

 更年期(閉経前後)にエストロゲンが減ると、脳の記憶と学習に関わる神経伝達物質などが減り、記憶をつかさどる海馬も影響を受ける。脳の萎縮につながる「βアミロイド」というたんぱく質を分解する酵素の働きも弱まっていく。

 また、閉経後は骨粗鬆症になりやすく、転んで骨折して寝たきりになれば、認知症のリスクは当然高まる。

 だが、90歳を過ぎてもボケずに元気な女性は多い。その分かれ目は、何なのか。順天堂大学大学院・白澤卓二教授は言う。「女性ホルモンは、工夫次第で日常のなかでバランスよく補えます。例えば夢中になれることを探したり、恋をしたり。香りを楽しむ、感動する、ビタミンEの多いものを食べる、ウオーキングもいいですね」。

 エストロゲンは、心がときめいたときや笑ったときによく分泌されるという。片思いや疑似恋愛でも、若返り効果を期待できる。「泣ける映画やドラマを見て涙をポロポロ流すのも秘策です」。

 ボケを防ぐ効果がある食べ物は、特に大豆だ。成分イソフラボンが女性ホルモンに似た働きをし、骨粗鬆症などを遠ざけるため、積極的に摂りたい。

「早いうちから骨を丈夫にする努力を。思いついたときに5分間ジャンプするだけでも強くなります」

 では、女性ホルモンを直接、体に取り入れる「ホルモン補充療法」は、認知症予防に効くのか。この分野に詳しい千葉愛友会記念病院(千葉)の大蔵健義医師は、「エストロゲンが記憶と学習に関わる神経伝達物質を活性化させたり、海馬に作用して記憶力を改善します。そのほか、βアミロイドの蓄積を減らして神経損傷の修復を促すことなどが、すでにわかっています。脳の血流が良くなるし、抗酸化作用によって細胞の老化なども防ぎます」と語る。

 日本におけるホルモン補充療法は、関連学会が作成した指針に基づいて安全面への配慮がされるようになった今、広まりつつある。だが、アルツハイマー病の特効薬にはならない、と大蔵医師は指摘する。

「アルツハイマー病の予防には、50~60歳に対して有効だと考えられていますが、現状は主に更年期障害のつらさを和らげる目的で使われています。米国では65~79歳、つまり閉経後十数年過ぎた人に使った結果、認知症が増えたとの報告があります」

 このように、年を重ねて動脈硬化が進んでからのホルモン補充療法は逆効果を招く危険性がある。年齢だけでなく、病気などで子宮を摘出した人も、女性ホルモンの使い方や期間が変わってくるため、婦人科でよく説明を聞いた上で臨んでほしい。生理が再開するために「面倒」との声もあるようだ。

週刊朝日 2013年5月3・10日合併号