美術館の内部。直島で安藤が意識している「自然との共生」が具現化されている(撮影/写真部・東川哲也)
美術館の内部。直島で安藤が意識している「自然との共生」が具現化されている(撮影/写真部・東川哲也)

 建築家の安藤忠雄が、直島(香川県)をアートで再生するプロジェクトに参画して、今年で25年になる。ベネッセハウス、地中美術館、李禹煥(リウファン)美術館など、これまで7つの施設の設計に携わった。8つ目となったのは、今年3月にオープンした自身の美術館「ANDO MUSEUM」だ。

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 安藤が一貫して意識してきたのは「自然と歴史、風土との共生」。美術館がある本村地区は、築100年以上の古民家が数多く軒を連ねる住宅街だ。安藤が語る。

「考えたのは、既存の環境に対して、いかに最小限の表現で切り込み、最大限のふくらみを持たせられるか。外観は木造2階建ての典型的な民家ですが、内部にコンクリートのボックスを入れ子状にして組み込むことで、天井への『ヌケ』をつくり出し、トップライトから光が落ちてくるようにしています。過去と現在、木とコンクリート、光と闇といった対立概念がぶつかり合いながらも重なり合う空間になるように意識しました」

 1989年に完成した「光の協会」(大阪府茨木市)に代表されるように、自然光は美しく、かつ機能的に採り入れるのは安藤建築のひとつの特徴だ。

「人工照明はひとつもありません。でも、光はきちんと入って、展示写真もよく見えるでしょう。照明を当てなければ、自然光はきれいに映える。暗くても明るいところがあれば、心が休まるのです」

 もうひとつ目をひくのは、地下にある異空間だ。内径2.7メートルの筒状のコンクリートをわずかに傾け、文字通り地中に埋め込むという大胆な設計になっている。安藤は、この部屋を〈瞑想(めいそう)する空間〉だと言う。

「筒を斜めにしているので、平衡感覚が失われます。でも、それでいい。現代は常に便利で合理的な平衡を保てる社会です。ここは非合理で、暖房も冷房もない、平衡感覚もなくなる。こういう社会もあることを考える空間なのです」

 今年は瀬戸内海の島々を舞台にした現代アートの祭典「瀬戸内国際芸術祭」が開催され、「ANDO MUSEUM」は、その参加作品のひとつに数えられている。

「大自然の中で垣間見える瀬戸内の風景やアートを楽しみながら、文化、環境、日本、地球について思索をめぐらせてみてください」

週刊朝日 2013年5月3・10日合併号