耳管開放症は2000年以降、多くの人に認知されるようになったが、まだ治療法は確立されていない。20年以上にわたって耳管開放症の治療に取り組み、年間400例以上を診る、金沢市立病院耳鼻咽喉科の石川滋医師に、現状を聞いた。

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 耳管開放症の患者数は100万人ともいわれています。およそ5対3の割合で女性に多く、なかでも30代、40代に多い病気です。

 この病気は、聴力検査や鼓膜に異常が見られないことも多く、検査をしても「異常なし」と診断されてしまうケースもあります。突発性難聴など他の病気と診断されて、適切な治療を受けていない患者さんも、残念ながら少なくありません。

 原因は体重減少、ストレス、血流の低下、自律神経の不調などいくつかの説があります。医師によって、どの原因を重視するかで治療法が異なります。薬物治療や生活指導、手術などの治療方法がありますが、統一した治療方針がまとまっていないのが現状です。そこで現在、日本耳科学会で診断基準案を作成中です。

 当院では自律神経である交感神経と副交感神経の関与に着目しています。神経内科と共同で11年に、副交感神経が優位になるリラックス時に、症状がどう変化するかを調査しました。約120人を対象にした調査の結果、約8割の患者に明らかな症状の軽減が見られました。そこで、副交感神経を刺激して血行促進や気持ちのこわばりをほぐす漢方薬である加味帰脾湯(きひとう)を処方し、約7割の患者さんに効果を上げています。

 そのほか内科的治療としては、ATPの服用、生理食塩水の耳管咽頭口への塗布、のどの殺菌に使われるルゴール液の耳管への噴霧などがあります。軽症例で一定の効果が見込まれる報告もされていますが、どの患者にも効果があるわけではありません。

 内科的治療で改善されない症状には手術が実施されることがあります。耳管ピンや耳管チューブ、患者自身の耳の軟骨を挿入するものや、脂肪移植術など、手術方法はいくつかあります。しかし、手術ができる医師や病院自体がそれほど多くなく、今後は安全な手術の普及が望まれます。

 耳鼻咽喉科を受診しても不快な症状が続くようなら、もう一度主治医に相談してみてください。

週刊朝日 2013年4月26日号