黒田東彦・日銀新総裁が打ち出した新たな金融政策に対して、債券市場では危うい動きが見られた。「伝説のディーラー」の異名をとる藤巻健史氏は、経験から「アベノミクス」について次のように話す。

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「エ~、ア~ア、やっちまった」。黒田東彦・日銀新総裁が新たな金融緩和を決めた翌日、月1度出演させていただいている毎日放送の電話取材に対する私の回答だ。黒田日銀はマネタリーベース(世の中に出回っている現金と民間金融機関が日銀に預けてある当座預金残高の合計額)を2014年末までに270兆円に増やすというのだ。

 私はモルガン銀行に勤めていた1980年代、90年代のマネタリーベースは約40兆円だった。それが常識的な数字として頭に入っていた。その後、量的緩和が始まり80兆円、90兆円になったと聞いたときは、目の玉が飛び出るほど驚いた。こんなことして大丈夫だろうか?と。

 それを270兆円にするというのだ。私の常識の7倍、まさに異次元もいいところの政策だ。

 新政策の発表後は株価がさらに力強く上昇し、「黒田日銀はやるべきことをやってくれた」と世間は浮かれている。株価の上昇は、当初の反応としては予想された通りだ、しかし、債券や為替市場の波乱で足をすくわれるのでは?という疑問は残る。

 世間が株高に浮かれる半面、新政策決定後の債券市場の動きは明らかにおかしい。新たに発行された10年満期の国債の金利が史上最低の0.315%をつけた後、乱高下を繰り返し、いかにも危険な動きである。

 円が雪崩を打って下落するか、債券市場がインフレ懸念で崩れるときが、近づいているのかもしれない。

週刊朝日 2013年4月26日号

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藤巻健史

藤巻健史

藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中

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