首長選や議員選の記録が役所から消えた――。こんな事実を、学習院大学の福元健太郎教授(41、政治学方法論)が“発見”した。

 きっかけは、2003年の統一地方選。統一選は1947年に始まったが、03年時点では市町村議会で5割、首長に至っては2割程度しか“統一”されなかった。そこで、統一選から外れた理由を調べるため、08年から調査を姶めたという。ところが、想像以上に作業は難航した。福元教授がその理由を語る。

「総務省に確認すると『自治体選挙の記録は各自治体が保存しているからわからない』と言われたのです。次に各都道府県の選挙管理委員会に問い合わせましたが、把握しているのは鹿児島県など一部でした」

 それならと、各市町村選管に直接問い合わせた。約1700の市町村のうち、調査対象は1千ほど。結果、約100の自治体が「当時の選挙記録がなくてわからない」と回答したという。その約100の自治体には合併を経たところもあるため、最終的にわからなかったのは200から300の旧自治体となる。

 福元教授が調査で感じたのは、町の土台であるはずの選挙記録を、きちんと保存しようという自治体と、そうでない自治体の熱意の差だったという。

「ほとんどの自治体は町史や人事台帳などのコピーを送ってくれました。辞めた職員や、町の古老のような人を訪ねて調べてくれたところもありました。一方、『わからない』と回答してきたところは、合併によってかつての市役所や町役場が支所となり、合併前を知る職員も少なくなって、資料がどこに保管されているか把握していないのでしょう。中には『そんな過去のもの』というような態度をとる自治体もありました」

 火事や洪水で記録が失われていたケースもあったという。戦後に実施されたすべての自治体の選挙記録を調べれば、さらに「消えた数」が増える可能性は高い。福元教授は言う。

「選挙記録がなければ、これまでの首長や議会が選挙で正当に選ばれた保証はない。各自治体は平成の大合併を経験した職員が現役のうちに、きちんと資料を保有しておくべきです」

 国の公文書について、11年度に紛失や誤廃棄など不適切な管理が181件あった、と2月に判明。職員6人が免職などの懲戒処分を受けた。「公の記録」をどう扱うか、改めて問われている。

週刊朝日 2013年4月26日号