国民栄誉賞を受けることが決まった長嶋茂雄・元巨人軍監督(77)。脳梗塞を患った際も、つらい顔ひとつせず、リハビリに取り組んでいた。その姿がまわりの患者にも元気を与えていたという。

 東京都渋谷区の初台リハビリテーション病院。母のリハビリに付き添っていた40代の女性が、長嶋氏を見たのは昨秋だった。手のリハビリをしていたおじいさんにトレーニングウエア姿の男性が声をかけた。

「がんばってね」。長嶋氏だった。

「なんというか、一瞬にして、暗くてつらいリハビリの場が、ぱあっと明るくなったんですよ」。

 2004年、脳梗塞で倒れた長嶋氏は、リハビリのために定期的に病院に通っている。やはり、何度か目撃した別の家族は言う。「長嶋さんが、『やあ、がんばってる? ぼくもがんばるから、みなさんもがんばってね』と声をかけると、歩行訓練をしていた人が、急にしゃきっと歩きだしたように見えました。まるで、立ち上がれなかった人が立ち上がったかのような……」。

 立教大野球部で長嶋氏の1学年先輩だった吉元清登さん(79)は、長嶋氏の言葉が胸に焼きついている。「リハビリ、ようがんばるな、と声をかけると、長嶋は『リハビリ? 違いますよ。これは、治すためのトレーニングです』と。担当医が驚くほどの努力をしていることはみんな知っている。それでもつらい顔をしない、いつも格好いい。それが長嶋茂雄です」。

週刊朝日 2013年4月19日号