落ち着いた雰囲気の店内でジャズを楽しむことができる「ジャズ喫茶」。個性豊かな老舗が多いが、そんな中、歴史は浅いながらも「ジャズ喫茶巡りをするなら、あそこへ行かなきゃ」と言われる店がある。音楽ライターの和田靜香氏が取材した。

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 東京・お茶の水の「グラウアーズ」。ここはスイングジャーナル社の元社員で、千葉で15年間ジャズ喫茶を経営していた古庄紳二郎さん(63)の店。開店してまだ2年足らずだが、根っからのジャズ・ファンが集う。

 なんといっても圧巻なのは、セロニアス・モンクらが輩出した名門レーベル「リヴァーサイド・レコード」のすべてのジャズ・レコードが、番号順に棚に並んでいることだ。

「おそらく世界で唯一のコレクションでしょう。これを聴くためにいらっしゃるお客さんも多いですよ」(古庄さん)

 実際、スーツ姿の男性客が「このレコードありますか」とジャズ専門誌を指さし、リクエストをしていた。壮観なレコード棚を背に、古庄さんが自費出版したリヴァーサイド・レコードの完全ディスコグラフィー本を見せてくれた。

「1984年から25年間かけて、独力で作りました。収録曲の録音時間も計って載せています」

 実に子細で、オール・カラーのジャケット写真も美しい。リヴァーサイドへの並々ならぬ愛情と情熱がにじみ出ている。居合わせた男性客に、どうしてこの店に来るのかと尋ねると、「古庄さんと話すのが楽しいから」と即答された。ジャズ喫茶の魅力は音楽だけではない。

週刊朝日 2013年4月19日号