空前のマラソンブーム。海外で走る、そんな夢を持ってトレーニングに励んでいる人も多い。海外マラソン歴25回を誇るベテランで、『ただ走る哲学者』(平凡社)などの著書がある早稲田大学の原章二教授が語る、おすすめの大会は……。

 フランスのボルドーといえば、言わずと知れたワインの名産地。中でもメドック地区はシャトー・マルゴーやシャトー・ラトゥールなどワイン通を唸らせる最高級のワインを生み出す地域として知られる。かの地で、ブドウの収穫期前の9月上旬に行われるのがメドックマラソンだ。世界遺産に登録されている街中やシャトーの庭、ブドウ畑を走りぬけるこの“トレビアン”な大会に2007年、参加した原教授がこう証言する。

「散歩するだけでも、うっとりするような景色で、走っているだけでも気持ちいい。でも、レースの魅力はなんと言っても、シャトーの庭先に設けられている給水所で出されるワイン。シャトーごとにそれぞれのワインが出ます」

 ワインはもちろん、食べ物もチーズやクラッカーに始まり、レースの後半には生ガキやステーキ、果てはデザートまで並び、フルコースが味わえる。

 給水所となるシャトーは年によって変わるが、昨年は一級シャトーのラフィット・ロートシルトが参加した。この内容で、エントリー料はわずか78ユーロ(約9500円)。ワイン好きには、まさに夢のような42.195キロとなっているのだ。当然ながら、ランナーは酔っ払う。

「シャトーごとに飲んでいたら、飲みすぎてしまい10キロくらいでフラフラになりました(笑い)。私の当時のベストタイムは3時間21分でしたが、5時間もかかりました」(同前)

 制限時間は6時間半。フルマラソンを走った経験がある人でないとゴールは難しい。しかも、給水所にたどり着くのが遅いとワインがなくなっていることもあるという厳しいレースだ。

週刊朝日 2013年4月12日号