鹿児島県の南大隈町。かつて高レベル放射性廃棄物の最終処分場誘致話が持ち上がったこの町で、その仕掛け人として暗躍していたのは「謎のフィクサー」X氏だった。町はずれに「白亜の豪邸」を構え、何台もの高級車やクルーザーを持つ、地元で有名な大金持ち――彼こそ、原子力ムラの「暗部」を知るフィクサーとされる人物だった。

 話は2007年に遡る。処分場誘致が浮上したいきさつについて、誘致話を推進した当時の町長、税所(さいしょ)篤朗氏が語る。

「地元の自民党衆院議員から、電話でXさんを紹介されてお会いしたところ、誘致話を持ちかけてきたんです。こんないい話はないと思いました」

 そしてX氏の号令のもと、商工会、漁協など町を挙げた官民一体の誘致活動が始まった。

 さらにX氏は、誘致話を確かなものにするため、“力業”に出る。当時の税所町長や商工会の幹部らに、処分場誘致の交渉をX氏に一任するという趣旨の「誓約書」を要求し、サインさせたというのだ。そのときの商工会長が、森田俊彦現町長である。税所氏は「誘致できるならと、誓約書に町長の公印を押して渡した」と言う。

 その後、公務で上京した税所氏を訪ねてきたX氏は、驚くべき言葉を口にした。

「東京電力の勝俣(恒久・前会長、当時は社長)さんが会いたがっている」

 勝俣前会長といえば、福島第一原発事故などの責任を取って一線を退いたものの、いまだ“カミソリ”の異名をとる、電力業界の「首領」である。自治体の長といえど、一町長が簡単に会える相手ではない。だが、X氏の話は嘘ではなかった。

「Xさんに連れられ東電本社に行くと、7階の一室に通された。そこに勝俣さんがいて、どのように誘致を進めるのか、という趣旨の質問があった。私が『議会で同意をもらい、いまは商工会を中心に、各種団体長も集めて誘致を実現しようという意気込みです』と答えると、『そうか、頑張ってくれ』とおっしゃいました。時間は15分ほどでしたかね。Xさんから勝俣さんに誓約書が届けられて、私に会おうという話になったのだと思います」(税所氏)

 その後もX氏は、沿岸に候補地を決め、豪華クルーザーに町議らを乗せて海からの見学会を開くなど、誘致話を具体化させていった。

週刊朝日 2013年4月12日号