4月2日、新しい歌舞伎座のこけら落とし公演が始まる。中村勘三郎さん、市川團十郎さんの逝去で悲嘆にくれた歌舞伎界だが、人間国宝の中村吉右衛門さん(68)は、重鎮として牽引する。これからの歌舞伎はどうなるのか。吉右衛門さんに聞いた。

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 役者にとって一番大事なのは、初代(吉右衛門)もつねづね言っていたのですが、「役になりきること」、役の性根、気持ちです。どういう人間か、それを深めなければならない。その気持ちになれば自然にせりふが出てくる、と。が、そうは言っても簡単ではありません。

 それは自分勝手なせりふ回しではない。ある一定のレベルがあるのです。これだと歌舞伎、これ以下は歌舞伎でない、というのがあります。僕自身、そういうものを身につけるのに60年かかっていますし、何をやっても歌舞伎になるのは20年や30年じゃできないので、こと細かく教えるしかないと思っています。

 初代は初舞台が11歳でした。いまの3歳や4歳に比べると遅いのです。なのに、大人顔負けの芝居をやっていた。それだけ周りの人たちが教え込んだ。本人の感性も鋭く、それを素直に自分のものにしたのです。当時はいろんな先生方、それこそ超一流の文学者や俳句の方とおつきあいがあり、感性を磨き、知識もいっぱい吸収できたのです。小唄、清元、常磐津も超一流の人たちに教わっている。でも、いまどき、それはなかなかできないことです。初代や実父の時代まではできたのですがね。

 昔の公演は夜だけ、日に一芝居という興行でした。昼間はお稽古事に通えました。でもいまは、昼と夜の公演が、お客様動員にすぐれているというので続いている。朝から晩まで出演していると、お稽古に行けない。芝居を教える時間がない。人の芝居を見に行く時間もない。自分のことで精いっぱいなのが現状です。

 僕らのころは歌舞伎役者になるなら学校も早退を黙認したりしてくれました。いまは大学に行くのが当たり前の時代、学業との両立は難しい。となると、舞台を離れる期間ができる。その間も勉強で忙しくて舞台を見られない。これからは厳しいなぁと思いますね。

週刊朝日 2013年4月12日号