東京・渋谷「ブラックホーク」、六本木「JAJU」、吉祥寺「ビーバップ」、京都・河原町「ポパイ」、大阪・道頓堀「ファイブ・スポット」……70年代を彩った伝説のロック喫茶の多くは、今はもうない。だが、ロック喫茶そのものは相変わらず健在だ。音楽ライターの和田静香が現代の名店を訪れた。

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 ロック喫茶を訪ねると、初対面のお客さんが「あそこもいいよ」と他の名店を教えてくれることが少なくない。いちばん推薦の多かったのは、東京・武蔵小山の「武蔵小山商店」だ。

 ナショナルの古いレコード・プレーヤーで『シュープリームス大全集』がかかる店はカウンター席のみ。店主の吉行慶一郎さん(28)はミュージシャンで、音楽が流れる店をやりたいと考えていたところ、バイト先の居酒屋の店長から「いい場所がある」と教えられ、24歳で開店した。

 父親の影響で日本のフォークを聴いて育ち、やがてジャズやR&Bなど、いろんな音楽を聴くようになった。そのせいか、「これは面白いですよ」と出してくるレコードはどれも多彩で意外性があり、おバカで楽しい。

 70年代の日本の女性ボーカルグループ、シュークリームの「ホットパンツのお嬢さん」(名曲!)、有名寺院の鐘の音を集めた『日本の名鐘』、昆虫などの鳴き声を集めた『蛙、蝉、虫』と、どれもヘンテコ。なのに、それがジャクソンズやユーミンの合間に流れると、不思議と一つの世界になる。「選曲がすごい」とは聞いていたが、ロック喫茶の奥の深さにワクワクさせられた。

 全盛期から四半世紀以上たっても、ロック喫茶の魅力は変わらない。ロックを愛する者が集い、語り、笑い、音楽がもたらす幸せに浸る。懐かしく、そして刺激的な空間にあなたも行ってみませんか。

週刊朝日 2013年4月12日号