抗生物質の最後の切り札とされる「カルバペネム」がまったく効かない、恐るべき細菌が米国を揺るがしている。専門家が「悪夢の細菌」とおびえるもので、それがカルバペネム耐性腸内細菌(CRE)だ。敗血症などを発症した場合、致死率は最大で50%にも達するという。

 米国では年間約170万人が病院内で感染し、9万9千人が亡くなっている。そして、日本でも感染が確認されている。

 健康な人に感染しても発症しないが、高齢者や、免疫力が低下した患者が感染すると、敗血症や多臓器不全を引き起こすこともある。とくに長期入院患者が多い病院や老人ホームなどで感染が広がりやすいとの指摘もある。

 ただ、これらの高齢者を介護しているかどうかにかかわらず、感染する危険はある。

「たとえばカゼなどの軽い症状で病院に行くと、抗生物質が安易に処方されることも多い。患者さんから要求されることもあります。ほとんどのカゼはウイルス疾患で抗生物質は不要です。安易に抗生物質を飲むことは、自らの体内で耐性菌を生み出すようなものです」(順天堂大学医学部の菊池賢・先任准教授)

 というのも、肺炎などの特効薬として抗生物質「ペニシリン」が誕生して以来、細菌は抗生物質への耐性を身につけることで生きながらえようと「変身」してきたからだ。

 人類と細菌の闘いは「いたちごっこ」といわれる。人類はより強力な抗生物質を開発して、耐性菌を封じ込めようと努力を重ねてきた。実はCREも同じである。菊池氏は、CREの遺伝子はもともと海などの自然界に存在していた、という仮説を立てている。「その遺伝子が人間を介して大腸菌などの菌に入り込み、抗生物質への耐性を持つように『進化』を果たしたと考えられます」。

週刊朝日 2013年4月5日号