保険料は安くても補償内容は同じじゃない…。じつは自動車保険には「落とし穴」があり、人身傷害保険では「億」の差がつくこともあるという。ジャーナリストの柳原三佳氏が取材した。

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「同じもの」と言われ「安く」買ったのに、実際は大いに違う。そんなことが自動車保険にもあるという。「消費者支援ネット北海道(ホクネット)」の青野渉(わたる)弁護士は「多くの消費者は自動車保険の補償内容が会社によって大きく違うという意識がないのですから、倍額条項(事故で要介護の重度後遺障害と診断されたとき、支払い上限が2倍になる)がないのに価格の安さを強調する比較広告はきわめてアンフェア」と指摘する。

 ホクネットは、2012年9月、比較広告が特に目立つとして、チューリッヒとアクサ損保に広告中止の申し入れを行った。これに対し、チューリッヒは、「倍額条項が適用されるようなケースは一般的に極めて少なく、同条項の認知度も低いこと、また、テレビCMには『本広告の保険料算出条件は、一般的な補償内容を付帯した場合を前提としております』と注記しており、一般のお客様が想定しているであろう極めてスタンダードな補償内容をベースとした保険料を掲載していること」などと理由を挙げて、「消費者契約法に違反するものではない」と回答している。

 しかし、この回答に疑問を感じざるを得ない。保険とはもともと万が一のために入るものだ。「倍額条項が適用されるようなケースが少ない」ことを前提に、「極めてスタンダードな補償内容」で保険料を提示し、倍額条項をつけている他社と比較することが、はたして通用するものだろうか。青野弁護士も、「倍額条項の認知度の低さ」を理由にすることを批判する。「これでは消費者の無知を利用した販売戦略と言われても仕方がないでしょう」

 一方、アクサ損保からは回答自体がなかったため、ホクネットは今年1月に再度申し入れをした。すると、「『人身傷害補償保険につきましては、保険金のお支払いの際に用いる損害額基準等は各社により異なる場合があります』といった内容の注意文言を付加することで、更なる注意喚起を行うことといたしました」との回答があったという。

 いずれも他社との比較広告を行っていく方針は曲げないようだ。

週刊朝日 2013年3月22日号