アベノミクスは「大胆な金融政策」や「機動的な財政政策」を掲げる。多額の国債を日銀に直接引き受けてもらい、大がかりな公共事業を盛り込んだ予算をつくった高橋是清(1854~1936)の手法に似ていると話題になっている。

 是清といえば、首相、蔵相、日銀総裁を歴任し、「ダルマさん」と親しまれた財政家だ。「高橋財政」によって、株価は1931年を底に、35年までに2.2倍になり、物価は11.9%上がった。世界大恐慌につらなる昭和初頭の経済パニックを切り抜け、「世界最速のデフレ脱却」と称された。

 アベノミクスにも、これが期待されている。しかし、実は、アベノミクスと高橋財政の問題点は同じなのだ。

 来年度の予算案では、借金の残高がGDP(国内稔生産)の2.2倍にまでふくらむ。財政危機に見舞われたイタリアの2倍近い水準なのに、将来どうやって借金を減らすか、筋道を描ききれていない。政府の試算によれば、歳出を抑えなければある程度の経済成長があっても財政健全化目標の達成は難しい。

 ここは、高橋財政でもそう変わらない。是清の場合は、景気がよくなってきたことから36年度の予算で国債を減らす方向に転じようとした。「増税なき財政再建」をめざしたのだ。たしかに結果を見れば、歳入に対する借金の割合は前年度よりも落ちている。

 しかし、慶応義塾大学の井手英策准教授の見方は厳しい。その理由を二つ紹介する。まず軍事費を正面から削れなかった。さらにやり方も近年と同じく、「埋蔵金」を掘り出し、公共事業を地方自治体に移し、軍事費など複数年にまたがる支出は将来に繰り延べする。さまざまな技術を使いこなして「健全」を演出しただけ――。

「いま求められているのは、高橋財政のレジームを超えることです」(井手准教授)

 是清からは成功だけでなく、失敗にも学ぶところが多そうだ。

週刊朝日 2013年3月22日号