日本人の平均寿命(2011年)は、女性が85.9歳、男性が79.44歳である。つまり日本では、女性のほうが相続の当事者になる可能性が高いのだ。そこで、妻の立場で遭遇しそうな相続の問題「へそくり」について専門家の意見を聞いた。

 夫の定期預金の積み立てが満期を迎えた際、貯まった1千万円を妻名義の口座に何げなく移したとしよう。そのお金は夫の「名義預金」とみなされ、遺産総額に含めて申告する必要が生じる。いわゆる「妻のへそくり」もこれに近い。たとえば、夫からもらう毎月の生活費を少しずつ浮かせて、妻名義の口座に貯める。これも“アウト”なのか。『相続のミカタ』(中経出版)の著者で、日本中央会計事務所の代表である税理士の青木寿幸(としゆき)さんのジャッジはこうだ。

「生活費の一部を貯め続けて、何百万何千万になりましたという場合は、妻の財産とは認められません。特に収入のない専業主婦だと、税務署の調査で厳しくチェックされます。きちんと贈与を受けたお金以外は、名義預金だと判断される可能性が高いでしょう」

 そこで青木さんが勧めるのは、夫婦間で贈与契約書を結ぶこと。契約書のひな型はネット上で無料提供されている。毎年110万円までなら、暦年贈与の基礎控除の範囲内で非課税だ。ただし、それだと“へそくり”にならないのが玉にキズではあるのだが……。

 一方で、『わが家の相続を円満にまとめる本』(実務教育出版)の著者で、弁護士の小堀球美子(くみこ)さんはこう話す。

「裁判になると、へそくりの半分は妻の財産と認められることが多いですね。妻のへそくりは夫の収入。でも、夫は妻の協力で仕事ができたとみなされるので、半分は妻のものという考え方になるようです。現金で『タンス預金』をしても同じ。それでも、半分は夫の遺産として課税対象になりますから、夫婦ともに元気なときに、へそくりを使い切ってしまうのがいちばん良いのではないでしょうか」

週刊朝日 2013年3月8日号