東日本大震災の被災地を題材にした映画「遺体~明日への十日間~」(君塚良一監督)が公開中。主演の西田敏行さんに被災地への思いを聞いた。

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――役を引き受けるかどうか迷われたそうですね。

 原作『遺体 震災、津波の果てに』(石井広太著)から受けた感銘や驚きをフィクションとして映像で伝えることができるのか、ご遺族の気持ちを逆なでするようなことになるのは絶対にいやだ、という危惧がありました。

 最終的に出演を決めたのは「これをどうしても映像化したい」という君塚監督の強い思いを確認したときですね。「この人は半端にこの作品を作ろうとしてないな」と。

――西田さん演じる民生委員の相葉常夫が、最初に遺体安置所になった体育館に足を踏み入れるシーンが印象的でした。

 あのセットは美術スタッフが遺体の配置も、泥の撒き方も、遺体のぬれ具合も、全部リアルに調べ上げたうえでできあがったものです。僕は準備中、極力見ないようにしていたんです。それでカメラを後ろに背負って体育館に入っていった。だからあれは、僕自身のリアクションでもあったんですね。

 ほかの役者もみんなそうだと思います。市職員役の志田未来ちゃんが小さな子どもの遺体を前に泣くシーンがありますが、彼女は“志田未来”のまんまであのリアクションをしたんじゃないかなと。小さい命が奪われたときに「どうしてあたしだけが生き残って……」と誰でも思うでしょう。「こんな小さな命も理不尽に奪っていくのか、津波は!」と。

週刊朝日 2013年3月8日号