日本の魚の養殖技術は日々進んでおり、クロマグロでさえ完全養殖が可能になった。早稲田大学教授で生物学者の池田清彦氏は「サバにマグロを生ませる」という新しい方法について説明する。

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 今年の初競りで一本1億5540万円もの値がつくなどして、もはや貧乏人には高嶺の花となった感のあるクロマグロだが、完全養殖に成功している。ただしコストがかかる。稚魚が成魚にまで育つ歩留まりが悪いのと、卵を産む親魚まで育てるのが大変なためだ。そこで、サバにマグロを産ませることができれば、後者の問題はクリアできる。サバはマグロよりずっと小さく飼育も容易だからだ。

 そんなことできるわけないって思うでしょうが、やろうと思えば可能なのである。魚ではA種の魚にB種の卵を産ませることができるのは大分前から分かっていたが、このほど東京海洋大学の吉崎悟朗教授は、冷凍保存したヤマメの精巣とニジマスの稚魚を使って、ヤマメの卵と精子を作ることに成功した。ミソは冷凍で精巣さえ保有しておけば生きているホストは不要なことと、精巣から卵も精子も作れることだ。

 ニジマスの雌の稚魚に移植されたヤマメの精原細胞は自力でニジマスの卵巣に辿り着き、ヤマメの卵になり、雄の稚魚に移植されたそれはニジマスの精巣に辿り着いてヤマメの精子になるのである。なぜそんなことが可能なのか。理屈は少々ややこしく、説明する紙幅はないが、魚は哺乳類に比べいい加減なのだとだけここでは言っておこう。ともあれ、冷凍精巣さえあれば、何とかなるわけで、サバにマグロを産ませるばかりでなく、将来は絶滅危惧種の種の保存にも役に立つ技術となるだろう。

週刊朝日 2013年3月8日号