週刊ビッグコミックスピリッツ(小学館)での連載30年を迎えた『美味しんぼ』で、今年始まった「福島の真実編」が話題だ。原作者の雁屋哲さんは、1988年にオーストラリアに移住し、日本と行き来しながら創作、執筆活動をしている。日本や世界の食文化をテーマにしてきた『美味しんぼ』で、福島第一原発事故後の福島の過酷な現実を伝えているが、「日本人は原発事故を忘れている」と嘆く。

*  *  *

 オーストラリアにも日本食材のスーパーマーケットがあり、日本からの輸入食材がたくさん売られています。特に風評被害などは聞きません。しかし、こちらではいまも、熱心に福島第一原発の状況が報じられている。原発が爆発したときの映像が流され、しばしば危険性にも言及する。最近では、日本では爆発の映像もあまり出さないんでしょう? 日本以外の国の人たちはいまも、強い危機意識を持っているのに、肝心の日本人が、事故のことを忘れつつあるように感じるんですよ。

 新聞などの報道は、どうしても断片的になってしまいます。それに対して漫画は、ある物事を全体的にまとめられますし、記録性も高い。『美味しんぼ』は30年続いていますが、30年前の漫画をいまだに読んでいただけています。だからこそ、安直なメッセージは発したくないんです。取材を通じ、なにが「福島の真実」かについてぼくなりの考えはできました。しかし、それを押しつけるのではなく、ぼくがこの目で見た真実だけを漫画で読者に突きつけ、それからあとは、読んだ人に考えていただきたい。いまはそう願っています。

週刊朝日 2013年3月8日号