福島の畜産農家は、牛の価格下落などで廃業の危機に瀕するなか、原発事故で飛散した放射性セシウムを含んだ稲などを食べた牛の糞が引き起こす「二次的被害」に頭を抱えている。ジャーナリストの桐島瞬氏がレポートする。

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「成牛では、1日10キロの餌を食べて9キロの糞を出します。つまり、10キロ食べて1キロ太る。経済効率を考えると、非常に分の悪い動物です」(いわき市内の牧場主)

 1千頭近くの大規模肥育農場では、毎日9トンの糞が出ることになる。出荷できなければ、置き場所がなくなるのは目に見えている。この男性の牧場では、毎年、春と秋の需要期には堆肥が不足することもあった。だが、震災後は以前の10倍に相当する2500トンが行き場を失っているという。

 さらにこの飽和状態の汚染牛糞は、「二次汚染」という深刻な事態を引き起こしている。いわき市遠野町にある三戸畜産では、堆肥舎に入りきれない牛糞が、牛舎横の川沿いにある敷地に広く積まれていた。牧場主の三戸誠さん(60)が言う。

「ウチでは2千トンの堆肥が処理しきれずにたまっています。検出されたセシウムは100ベクレル以下ですが、川に若干流れ出てしまったようで漁協から苦情が来ました。堆肥は産業廃棄物なので、不法投棄とみなされれば、罰金1千万円の上、逮捕されます。とはいえ他に置き場所はないし、行政も助けてくれません」

 堆肥の置き場所がなくなり、牛舎にたまった牛糞で身動きがとれなくなった牛が窒息死するという、ちょっと信じがたい“事件”もあったという。

週刊朝日 2013年3月1日号