福島第一原発事故から、もうすぐ2年。東京電力の損害賠償手続きが一向に進まない中、ジャーナリストの桐島瞬氏は、福島の畜産農家に深刻な「牛糞」問題が起きているという。

*  *  *

 畜産農家で飼育されている牛の糞は、堆肥舎で3ヶ月から1年ほど発酵させると、程よい堆肥になる。その後、耕種農家に出荷され、畑の肥料として使われる。だが、震災後はそれができなくなった。牛が、原発事故で飛散した放射性セシウムを含んだ稲を餌として食べたため、糞が汚染されてしまったのだ。

 国が、牛糞堆肥や稲藁に含まれる放射性セシウムの暫定基準値を定めたのは、事故から5カ月後の2011年8月1日。1キロ当たり400ベクレルを超えたものは、使用も出荷もできなくなった。いわき市の畜産農家の経営者が言う。

「県から、藁などを与えてはいけないと言われたのは、7月でした。それまで牛は、汚染藁や牧草を普通に食べてしまったのです」

 昨年6月から12月までに福島県が実施した牛糞堆肥のセシウム検査によると、調査対象992件のうち、約25%に当たる246件が400ベクレルを超えた。中には1万4千ベクレルという、基準値の35倍ものセシウムが検出されたケースもあった。

 結果だけを見ると75%は基準値以下だが、引き取り手はほぼ皆無になった。いわき市の別の牧場経営者の男性が言う。

「いくら国が400ベクレル以下は大丈夫と言っても、作物を育てて出荷する立場になったら当然、慎重になる。生産者は0に限りなく近くないと堆肥を買ってくれない。おかげで、震災後はまったく売れなくなってしまいました」

 畜産農家から「行政は十分な対応ができていない」との声が上がる中、福島県はこう弁明する。

「県内にたまった汚染堆肥は十数万トン。本来なら焼却処分が理想ですが、場所が決まらず、畜産農家の空きスペースに一時保管するしかない状態です。一方、基準値以下の牛糞堆肥は、除染で表土を剥ぎ取った土の力を回復させるために、一部の牧草地などで使われ始めています」(環境保全農業課)

週刊朝日 2013年3月1日号