腎臓にがんができると、これまでは全摘が一般的な治療法だった。しかし、からだの負担を減らす腹腔鏡下(ふくくうきょうか)手術での部分切除が可能な施設も増えている。20年前に腎がんを患い、右の腎臓を全摘していた神奈川県在住の中嶋三男さん(仮名・63歳)は、7年前、血尿が出たことがきっかけで、左の腎臓に再びがんが見つかった。

 担当した東京女子医科大学病院泌尿器科講師の近藤恒徳医師は言う。「普通であれば全摘ですが、中嶋さんはすでに片腎(へんじん・単腎)だった。人工透析をしたくないという本人の希望もあり、部分切除する方法を模索しました」。

 片腎であっても、腫瘍ができる位置によっては通常の部分切除が可能だ。しかし、中嶋さんの腫瘍は腎臓の下部にできて血管にもからみついた大きなものだった。その結果、「自家腎移植による部分切除」を選択した。同院には「腎センター」があり、さまざまな腎臓疾患を得意としている。腎がんや腎移植の症例数は日本でトップクラスだ。腎移植チームと合同で、一度腎臓を切り離し、腫瘍を切除したのちに体内に戻すという方法がとられることになったのだ。

「根治性を考えると全摘のほうが優れている。しかし、患者さんの生活を考えると、機能を温存してあげたい。そこのバランスは考えなければなりませんが、自家腎移植という方法で腎臓を残すことは可能なのです」(近藤医師)

週刊朝日 2013年2月22日号