安倍晋三政権の経済政策で急速に円安が進んでいる。しかし、投資助言会社「フジマキ・ジャパン」の代表、藤巻健史氏は、円高が諸悪の根源だと訴え続けてきたにもかかわらず、この政策によって財政破綻がさらに現実味を帯びてきたと苦言を呈す。

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 安倍首相の円安政策はすばらしい。しかし10年遅かった。この10年間で財政赤字が巨大化したのが致命的なのです。

 もちろん小さなチャンスに賭けるのもひとつの見識です。しかし財政破綻が不可避であれば、それを早く起こしたほうが日本のためにいいのかもしれません。いい悪いはともかくとして、わたしは、アベノミクスは財政破綻を早めると思います。

 安倍政権の政策には二つの問題があります。円安を進める「方法」と「時期」です。

「方法」から言うと、安倍政権は円安を進める手段として、日本銀行による「無制限の量的緩和」を掲げています。

 しかし、円安はまったく進みませんでした。いままで効果がなかったのに、今後効果が期待できるでしょうか。一方、リスクは間違いなく大きいと思います。物価が急騰するハイパーインフレを引き起こすリスクです。

 もうひとつの問題は「時期」です。これがもっとも深刻な結果、すなわち破綻につながる最大の要因だと考えています。

 なぜなら、国の借金が983兆円(昨年9月末)にもふくれあがってしまったからです。円高が進み景気も低迷したことで「ばらまき」が繰り返され、橋本龍太郎政権が財政構造改革法を成立させた1997年に比べて、2.7倍にまで積み上がってしまいました。

 これまでは幸か不幸か、金融機関で余ったお金が融資ではなく国債に向かったので、財政破綻を防ぐことができたのです。

週刊朝日 2013年2月22日号

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藤巻健史

藤巻健史

藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中

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