肺炎のため歌舞伎俳優の市川団十郎(本名・堀越夏雄)さんが2月3日、亡くなった。白血病に苦しんできた団十郎さんは、朝日新聞の連載「患者を生きる」に2度にわたって登場し、闘病の壮絶さを語っている。取材した記者が、その様子を振り返った。
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取材の間、何より驚いたのは、資料も見ず、すらすらと医学的な専門用語が出てきたことだ。白血病というのは、どういう病気であるのか。使った薬の効果や、がん細胞が検出されなくなる「寛解(かんかい)」の意味。移植の種類やそれぞれのメリット、デメリット、移植後の感染症が最も警戒すべきものであることなど、「講義」を受けたようだった。
本やネットで相当勉強し、主治医に疑問をぶつけて学んだという。「自分の体に何が起こっているのか、知らないと闘えませんからね」と、さらりと言っていた。
主治医が2度目の移植前、死亡リスクが3割という説明をした後、こう尋ねたそうだ。「それで先生、いつごろ退院できますか?」
相当にシビアな状況だということは理解していたはず。舞台への強い思いがにじみ出るエピソードだ。
再移植後の復帰の相談を受けた医師は「半年後なんて無理」と思った。だが、筋力を落としたくないと無菌室や病院内をものすごい勢いで歩き回って体力の回復に努める姿に、仕方なくOKを出したという。
亡くなる4カ月前となったインタビューで、団十郎さんはこうも語っていた。「寿命っていうのはさだめですからねえ。今の命は『おまけ』のようなものですから。それまで恩返ししようと思っていますよ」。
※週刊朝日 2013年2月22日号