関東、東北、北海道では昨年の3~7倍に――。日本気象協会が発表した今春のスギやヒノキの花粉飛散量だ。日本の花粉症患者は人口の約16%に上るといわれる。約2千万人の患者たちは、花粉の大飛散を前に、一体どう立ち向かえばいいのか。副作用や通院の負担が少なく、誰もが安全に治療できる方法は存在しないのだろうか。

 実は、そんな夢のような治療法の研究が、現在進行中だ。それが“食べて治す”、「スギ花粉症治療米」だ。

 農水省所管の農業生物資源研究所と日本製紙が、共同で研究開発を行っている治療米は一見するとただの米だが、副作用の起きない安全なスギ花粉タンパク質を遺伝子組み換え技術で米の内部に埋め込んだ、いわば米の形をした薬だ。

 農業生物資源研究所の高野誠研究主幹は、こう話す。「スギ花粉タンパク質は腸から吸収されます。一度の投与で大量のタンパク質を吸収できるので、投与期間は半年から1年ですむ。将来的には1日1パック(約80グラム)を半年以上食べ続けることで症状をなくすことを目標としています」。

 現在は動物実験の段階で、マウスを用いた薬効試験では、普通の米を食べたマウスよりも、花粉症を引き起こす抗体を約70%減少させた。また、くしゃみの回数も4分の1以下になるなど、高い効果が確認されているという。

「ヒトに対する臨床試験や遺伝子組み換えに対する抵抗感など課題はあるが、順調にいけば、7~10年後には薬として承認が得られるようにしたい」(高野研究主幹)

 花粉症は米を食べて治す。そんな時代が来るかもしれない。

週刊朝日 2013年2月22日号