「待ってて」 父・団十郎の最期に娘が思ったこと 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

AERA dot.

「待ってて」 父・団十郎の最期に娘が思ったこと

このエントリーをはてなブックマークに追加

 歌舞伎俳優の市川団十郎(本名・堀越夏雄)さんが2月3日、肺炎のために亡くなった。愛娘、舞踊家の市川ぼたんさん(33)にその最期を聞いた。

*  *  *
 この2月3日、私はたまたま地方公演が入っていました。毎日必ず病院に行っていたのに、その日だけは行けない。前日、父の枕元で「明日はお母さんに任せるね」と囁きました。昼間、舞台稽古が始まる前、母から父の容体が悪化したという電話が入りました。

 どんなに具合が悪くても必ず元気になってきたので、母の言葉を信じたくない。そのまま稽古に向かいましたが、内心は一刻も早く東京に戻りたかった。夕方からの本番が終わり、新幹線に飛び乗ると、母から電話が入り、「大変だから、あとどのくらい!?」。兄が父に向かって叫んでいるのが電話の向こうから聞こえてきた。

 新幹線の中で私も父に向かって電話で叫び続けました。「待ってて!」。電話を父の耳元に置いてもらって。どうしても会いたかった。病院の先生に心臓マッサージをしてもらって、私が病院に着いたとき、かろうじて心臓が動いていました。「ありがとう」と声を掛けると、4分後、息を引き取りました。待っていてくれたのだと思います。

 なぜこの日だったのか、いつも病院で一緒にいたのに、父が一番つらいときにそばにいてあげられなかったのが悔しい。どんな状況でもちゃんとしなさいと、父は最後に教えてくれたのだと思います。

 どんな人にも分け隔てなく接し、人の話をきちんと聞く。一人ひとりの気持ちを大事にする人でした。言葉には出さなかったけど、言葉にできないもの、目に見えないものが大事だと教えてくれました。いまは、「ありがとう」という言葉しかありません。

週刊朝日 2013年2月22日号


トップにもどる 週刊朝日記事一覧

続きを読む

おすすめの記事おすすめの記事
関連記事関連記事

あわせて読みたい あわせて読みたい