近代中国の要、天安門広場もかすんで見える (c)朝日新聞社 @@写禁
近代中国の要、天安門広場もかすんで見える (c)朝日新聞社 @@写禁

 ロンドンは霧の都、パリは花の都。では北京は? 答えはスモッグの都。北京市内はいま、車や工場の排ガスに含まれる汚染物質「PM2.5」に覆われて霞がかかり、小学校は休校、病院ではせき込む子どもが長蛇の列をつくるという、とんでもない事態になっているのだ。

 PMというのは、Particulate Matter(粒子状物質)の略で、2.5は粒子の直径。単位はマイクロメートルで、髪の毛の太さの40分の1程度という非常に小さい物質が、健康被害を引き起こしているのだという。

 九州大学応用力学研究所の竹村俊彦准教授(大気環境学)が解説する。「健康被害が出る大きな理由は、PM2.5が小さすぎるので、肺の奥深くまで入り込んでしまうからです」。環境省の報告(2009年)では、PM2.5の濃度が1立方メートルあたり10マイクログラム上がると、肺がんのリスクが約1.2倍になると推計されている。ぜんそくなどの呼吸器や循環器の疾患の引き金になるとの指摘もある。

 恐ろしいことに、この物質はすでに日本の上空にも飛来している。長崎県内では通常20マイクログラム前後の測定値が、31日の午後3時までに県内の4カ所の平均値で41マイクログラムになった。福岡市や山口県の一部でも基準を上回る数値が出ている。

 この状況を受け、加藤勝信官房副長官は同日の記者会見で、「ただちに日本への影響があるレベルではない」と冷静な対応を呼びかけた。だが、「ただちに影響はない」というのは、11年の東京電力福島第一原発事故でも繰り返し聞かされた言葉だ。本当に信用できるのだろうか。

「日本まで届く濃度であれば、私も『ただちに影響はない』と思います。ただし、これには『成人の健康体であれば』という前提がつきます。もともと循環器系や呼吸器系に疾患がある人は、影響がないと断定できません」(竹村准教授)。

 中国で発生した大気汚染物質は、過去には岩手県まで飛来していることが確認されている。今回のPM2.5も、北海道から沖縄まで、日本のほぼ全域を覆っている。しかも、問題は春先にかけて、さらに深刻化する恐れがある。

週刊朝日 2013年2月15日号