ジャーナリストの辛坊治郎氏は、1962年に当時の通商産業省が定めた「電気用品の技術上の基準を定める省令」を昨夏の「ある事件」がきっかけで読んだ。しかし、その膨大な量の規制を目の当たりにし、読み始めて15分で完全にダウンしたという。その事件とは?

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 パナソニックは昨年8月、満を持して、最高級のエアコンシリーズを発表した。このエアコンの最大の目玉は、スマートフォンからの遠隔操作機能だった。

「だった」と過去形で書くのには理由がある。実はこの製品がプレス発表されたのは8月21日、しかし後に製品が店頭に姿を現した時には、肝心要の「外からスマホでスイッチを入れる」という機能が製品から取り除かれていたのだ。

 1961年公布の「電気用品取締法」(2001年に「電気用品安全法」に改称)の下で制定されたこの省令は、特定の商品を除いて「赤外線などで近距離から操作する以外の遠隔操作」は認めていないというのだ。

 そもそも、外部からエアコンを操作してどんな不都合があるというのか? 日本経済新聞は、経産省の役人のコメントを載せていた。曰く、「快適性の裏には危険性が潜む、ということをご理解いただきたい。実際に過去、電気ストーブや石油ファンヒーターが、不在時のリモコン機能の誤作動により火災事故につながった例も報告されています」。

 日本では、スマホでエアコンのスイッチを入れる製品さえ役所に販売を止められるありさまだ。世界一優れた日本企業の足を引っ張り、日本の将来を暗くしているのは誰か、もはや疑う余地はない。

(週刊朝日2013年2月8日号「甘辛ジャーナル」からの抜粋)

週刊朝日 2013年2月8日号