この冬、猛威を振るっているノロウイルスと、本格的な流行が始まったインフルエンザウイルス。1月4日、甲府市内の病院で亡くなった80代の男性からは、インフルエンザウイルスとノロウイルスがともに見つかった。ダブル感染の危険性はどれほどあり、その症状にはどんなおそれがあるのだろうか。

 そのリスクについて、微生物学が専門で院内感染対策にも詳しい東京医科大学病院感染制御部部長の松本哲哉氏は、一般論と前置きした上でこう話す。

「ウイルス感染によるリスクには、二つの意味があります。一つは『感染するリスク』、もう一つは『症状が重症化するリスク』です。ダブル感染で気を付けたいのは後者のほうです」

 インフルエンザは高熱から、感染性胃腸炎では下痢や嘔吐から、脱水症状が起こる。ダブルで感染すると症状が強まり、患者が受けるダメージは大きくなる可能性があるという。

「とくに、寝たきりの高齢者や、基礎疾患がある人などはリスクが高いので、注意が必要です」(松本氏)

 前国立感染症研究所感染症情報センター長で、現在は川崎市衛生研究所所長を務める岡部信彦氏も言う。

「一方の感染で体力が消耗しているときに別の感染が起これば、全身状態がさらに悪くなる可能性は否定できません。ただし、高齢者ではインフルエンザウイルスに感染した後に生じる細菌性肺炎や、ノロウイルス感染による嘔吐の後に吐いたものがのどに詰まる窒息、気道に入って起こす誤嚥(ごえん)性肺炎のほうが危険です」

 感染するリスク――つまり一方に感染すると、もう一方にも感染しやすくなるかという点については、2人の専門家は否定的な見方をしている。

 ところで、そもそもダブル感染は、よくあることなのか。松本氏は、「ウイルスまで検出されたケースはほとんど経験がありません」と話す。

 岡部氏も同意見だが、「あってもおかしくない」という見解だ。「感染性胃腸炎は、11月から12月にかけて流行のピークを迎えるのが特徴です。一方、インフルエンザはこれから増えていきます。それぞれの流行が重なる時期があるわけですから、ダブル感染する可能性はあります」(岡部氏)。

週刊朝日 2013年1月25日号